これが不器用な僕の愛情表現
 バーバラと恋人という新しい関係になってから一年が経った。
 
 一年と区切りがいいから何かサプライズでもしてやるといい、と提案したのは姉だった。
 あれは提案というより命令のように感じたのは自分の気のせいだろうか。
 
(サプライズ、ね……)
 
 そういうことは不慣れなため何をしてやれば女が喜ぶのか分からない。
 そもそも自分はサプライズをするとかそういう柄でもない。
 ただ彼女の喜ぶ顔が見れるならサプライズとやらをやる価値はあるだろう。
 
(なにか物を贈ればいいのか?)
 
 ……剣とか。
 いや、喜ばないか。
 
 考えてみれば、自分の頭の中にあるのは剣や防具、薬草などの知識ばかりだ。
 特別な異性への贈り物に関しての知識など一ミリもない。
 姉に何かヒントでも聞いとくんだった。
 
「なにかお探しでしょうか?」
「え、あ……いや、オレは……」
「もしよかったら店内へどうぞ」
 
 女性店員の声に思考の海に流されかけていた自分の意識が引き戻される。
 どうやら何かの店の前でずっと考えていたらしく、女性店員には何を買うべきか悩んでいるお客様に間違われたらしい。
 弁解するも女性店員はにっこり、と笑って店のなかへ姿を消した。
 
(指輪……?)
 
 見るからに高そうな指輪が陳列している。
 きっとここはそういう店なのだろう。
 
(一応、入ってみるか……)
 
 何かヒントが掴めるかもしれない。
 店内に入ると、指輪以外にも色んなアクセサリーが大事にショーケースに仕舞われている。
 それらの類いのを見ていると、ある一つのものに目が止まる。
 
「それはピンキーリングですね」
「ピンキーリング……?」
「ピンキーリングはユニセックスで女性でも男性でもファッションリングとして付けている方が多く、お値段もお手頃ですのでとても人気がありますよ。最近ではカップルの方がペアで購入するケースも増えていますよ」
 
 その場に立ち止まると、先ほどの女性店員がそう説明した。
 
「……じゃあ、これをペアで」
 
 指差したのは至ってシンプルなリングだ。
 自分も付けると考えると、どうしてもシンプルなものになってしまう。
 バーバラは「もっとハートとか可愛いのがいい!」と言うかもしれないが、もう仕方がない。
 どうせ大人になってからも付けるのだから、アイツもシンプルな大人っぽいリングに感謝する日が来るだろうと信じたい。
 ピンキーリングを買い終え、宿屋に戻り、自室に戻るとオレのベッドで勝手に眠っているバーバラがいた。
 
「なにしてんだ、コイツ……」
 
 ベッドの端に座り、バーバラの柔らかそうな頬をぐい、とつまんでやる。
 
「んぅー、朝ぁー?」
「馬鹿か、お前は。朝なわけないだろ」
 
 眠そうに目を擦っているバーバラを見ていると無性に抱き締めたくなったが、何とか平常心を保つためにバーバラの頭を軽く叩く。
 
「んー? ……あ、そっか。テリーが帰って来るのを待ってたんだっけ。おかえりなさい!」
「……ただいま」
 
 バーバラに満面の笑顔でぎゅうぅ、と抱き締められるのをオレは恥ずかしさに押し潰されそうになりながらも拒否することが出来ない。
 バーバラの笑顔にオレは弱い。
 
「ねえ、テリー。今日どこに行ってたの?」
「……別に、関係ないだろ」
 
 バーバラの問いかけに答えてしまったらサプライズの意味がない。
 
「そういう言い方ないんじゃない? だって、だって今日は……今日は一年記念日なんだよ?」
 
 まばたきをすればこぼれ落ちてしまいそうなぐらい涙目なバーバラにうっ、と声が詰まる。
 
 泣かせるつもりはないのに。
 ただバーバラを喜ばせたくて、バーバラの笑顔を見たいだけなのに。
 
「悪かったから泣かないでくれ」
「泣いてないもん! まだ!」
 
 完璧に泣いてるだろ、これ。
 
「はぁ……仕方ないな」
 
 本当はこの箱を渡して開けた瞬間の喜ぶ顔が見たかったのが、こうなっては仕方がない。
 バーバラの右手の小指に、先ほど買ったピンキーリングをゆっくりはめさせる。
 自分の右手の小指にも指輪をはめる。
 
「こ、これ……!」
「……お前に、やる」
 
 さっきまで目に涙をいっぱい浮かべていたのが嘘のように、バーバラの顔がパアァと輝く。
 
「テリー、ありがとう! 本当に、本当にありがとう! あたし今までの人生で一番幸せだよ……。テリー大好き!」
「……フン、指輪ぐらいで大げさな女だ」
 
 オレが照れ隠ししてるのが分かってるのか、バーバラは嬉しそうにまた笑った。
 
「だってだって! 本当に嬉しいんだもん。テリーも着けてるし、お揃いだね」
「戦うときは外しとけよ」
「んー、本当はずっと着けていたいけど分かった」
 
 やっぱり注意しといて良かった。
 コイツの性格上、ずっと身に付けていそうだ。
 今だってずっと右手の小指にはまっている指輪を愛しそうに触っている。
 
「ね! 似合う!?」
「……普通」
「本当は凄く似合ってるって思ってるくせに」
 
 じとり、とバーバラが睨んでくる。
 
「自意識過剰だな。いつも思っていたがお前は自分に自信がありすぎる。謙虚な姉さんを見習うべきだ」
「なんだとー!」
 
 殴ってこようとするバーバラの細い腕を左手で掴む。
 
「怒んなって」
「別に、怒ってないし」
「じゃあ頬を膨らませるな」
 
 バーバラの頬を右手の人差し指で突っつく。
 
「……うー、ゴメンね、テリー」
「いきなりなんだよ」
「だって、あたし何も準備してなくて……。一緒に過ごすことばかり考えてた」
「別に勝手に貰うからいい」
「え……」
 
 バーバラの声を遮るようにキスをする。
 
「ホント、ズルいなぁ」
 
 唇を離すと頬を赤く染めて拗ねたような表情をしているバーバラに、もう一度キスをした。
 
 
 
 
 
 Fin.
-20-
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