薬売りと語り人


「―…だったとさ。はい、今日はこれにておしまいっと。」

「えー、もっとぉ!」


そう言ってせがむ童子らに、男は苦笑しながらひらひらと手を振ってみせた。


「さぁさ、さっさとお帰りよ。でないと怖ぁいお人が来ちまうからねぇ?」


一人ひとりの頭を掻き撫でて、一人ひとりに言い聞かせ。


「いい子だから、さぁ。」


そうして男が煙管を取り出す頃には、ようやく童子らの姿は消えていた。

男の他にはもう誰もいなかった、はずなのに。


「怖い人、とは私のことですかね?」


不意の問いかけに男は笑って応える。


「あぁ、怖いねぇ怖いねぇ。」

「私はただの、」


いつの間にか男の前に立っていたのは、異様な風体の



「薬売り、ですよ…」



「薬売りにしちゃあ、お前さん。えらく物騒なもんをお持ちだねぇ。」

「あなたも…酷く『物騒なモノ』をお持ちでいらっしゃる。」


くっ、と詰まったような笑いを漏らし、男は煙を吐き出した。


「怪談話には妖が寄ってくるというが、」

「俺の声にゃあモノノ怪が、だろう?」


薬売りの言葉尻を掠めとり、男はけらけらけらけらと。


「斬るかい?俺を。」

「斬る。」

「斬れるのかい?お前さんに。」

「斬る。」



カチン、



と男の鼻先に突きつけられたのは、未だ鞘に収められたままの剣。


「形も真も理も。総てあんたが語ってくれたんですぜ?」

「語るぐれぇしか、年寄りの楽しみなんてねぇからねぇ。」


男は目を細めた。


「お前さんによく似た男を、俺ぁ知ってるよ。もっともあっちは人ではなかったがね…」

「ほぅ、」

「角のない鬼の話さね。聞いたこたぁねぇかい?」


薬売りは答えない。

男もそれを気にしはしなかった。


そしてしばし、懐かしげにどこかを眺めた後で、


「…なぁ、薬売り。お前さん、」





「自分は『人』だと言い切れるかい?」





カチン、





「…おやおや、これは―…」


気付けば、薬売りの前から男は消えていた。


「…どうやら巧いこと、逃げられたようで。」


背後でカタカタと天秤が鳴っている。

だが、それを取り出す気にはなれなかった。









「―…とさ。はい、今日はこれにておしまいっと。」


【語り人】了


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嘘つき、ロンリー。