木村と『宿直の先生』


菊原小学校七不思議の一つ、『消えた先生』。

それはその名の通り、ある日突然消えてしまった先生の話だ。


宿直の翌日から姿が見えず、未だに行方どころか、事件か事故かさえ分かっていないらしい。


だけど、子ども達は何となく察していた。



だから皆、“噂”する。



『ねぇ、知ってる?』


『放課後、誰もいない廊下でその先生の名前を呼ぶと返事が返ってくるんだって。』


『驚いて逃げちゃだめだよ。逃げたら「廊下は走るな!」って怒って追い掛けてくるから。』



『でもね、やっぱりその姿は見えないの。』



そして不安と、ほんの少しの期待を込めて、その名前を口にする。



「…黒兎先生。」






「何だ?」







「って返事をしたら、どこまでも追い掛けてきたんですよ…!」


こっちの姿は見えていないはずなのに…!

とガタガタ震える自分の身体を抱き締めながら訴える、黒兎先生こと『消えた先生』。

その背中を宥めるように撫でながら、プールの幽霊は奇妙な親近感を覚えた。


「というか、黒兎先生ってこんな人でしたっけ?」

「あ、プールちゃんもそう思う?何かもっとこう…クールに切り返すキャラだったような…?」

「そうそう、舌打ちして悪態付くのが黒兎先生だよなぁ。」

「そうだな、踏みつけて塵を見るような目で見下ろすのが黒兎先生だ。」

「…お前ら、何でそんな具体的なんだよ?」


花子さんの疑惑の眼差しに「まぁ、冗談はさておき」とわざとらしく咳払いするテケテケ。

「本当に冗談なんですかねぇ?」とあざとく首を傾げる赤マントのこともここは見ないフリだ。


「そもそも彼は『消えた先生』の噂の化身、あくまで子ども達のイメージする『黒兎先生』であって、黒兎先生本人とは直接関係ないからな。」

「あ、そっか。別に黒兎先生が死んで化けて出てきたって訳じゃないのか。」

「あぁ。そしてここで問題なのはすでに確固たる存在となっている我々と違い、彼には未だ未確定要素が多いということだ。さながら自身の方向性を掴みきれず、女子高生から未亡人まであらゆる企画に身を投じるAV女優のごとく」

「おい、要点は何だ。さっさと言え。」

「まぁ、要するに、だ。彼は今噂だけでなく、対峙した相手のイメージにさえ左右されやすい状態にあるということだ。今回の場合、目の前にいた木村先生のイメージ、いや願望に影響されたのだろう。」

「木村先生の、願望…」


チラリ、とその場にいた怪談達の視線が『黒兎先生』に集まる。

それに気付き、ビクッと肩を震わせる『黒兎先生』。


「泣かせたい…いや、啼かせたい、といったところか…」


その瞬間、「ヒッ…!」と短い悲鳴が上がった。





キモダメシ

(折角揃った七不思議が再び六不思議に戻るのも、そう遠くはない話)


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嘘つき、ロンリー。