薬売りと修験者
ねっとりと「傷口」を這う舌の感触が生々しく伝わってきて、思わず舌打ちと共にそれを振り払う。
「おめぇ…わざとやってんだろ?」
そして、苦々しげにそう吐き捨てれば薬売りがうっすらと笑った。
いや、そう見えたのは化粧のせいか。
「さて、何のことでしょう…」
また舌打ち。
薬売りが、やはり笑う。
「…薬売りなら薬売りらしく、とっとと薬を寄越せ。」
「薬、ですか…」
わざとそう聞き返しながら、再び「傷口」へと視線を落とす薬売り。
綺麗にぱっくりと斬られた袖。
そこから見える俺の腕には―…傷も、何もなかった。
「…え?な、何で…っ」
ようやくそのことに気付いたらしい、傍らの女が動揺する。
「…なァ、薬売り。」
「何でございましょう?」
「お前、さっき言ってたよなァ?モノノ怪ならば斬る、と。」
「えぇ…」
「なら後はおめぇに任せらァ。」
「い、一体何がどうなっているのよっ!?」
とんとん進む話を遮る、甲高い怒鳴り声。
面倒臭ぇと吐き捨ててやりたかったものの、相手は一応今回の雇い主だ。
何とかそれを飲み込み、散らすように頭を搔いた。
「あー…村の奴らは剣難神がどうの言ってやがったが、ありゃあ神なんて高尚なもんじゃねぇよ。」
傷のない「傷口」。
それがその証。
「鎌鼬だ。三きょうだいの。」
「なっ…!?」
「おや…何かご存知で?」
面白いほど反応してくれた女に薬売りが意地悪く問う。
ここらで俺も乗ってやろうか。
「あァ…そういやあんた、『三人の男』にいっぺんに求婚されたって自慢してたっけね?」
「ほぅ…?」
「なァお嬢、そりゃあ『三兄弟』じゃあねかったかい?」
「っ、それは…っ」
「真と理、お聞かせ願いたく候―…」
カチン、
風の止んだ峠道に、その音はやけにひどく響いた。
【鎌鼬】了
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嘘つき、ロンリー。