山犬の長とその子らと背の君


『シシ神様がお前を生かした。だから助ける。』


朧気な記憶の中で、私を見下ろした山犬の姫はひどく複雑そうに顔を歪めながら、続けてこう言い放った。


『…それに、とうさんも「そうしろ」と言っている。』


父、とは。

嗄れた声で問い返したそれは、サンの耳には届かなかったらしい。


いつぞや川の対岸で見た、一際大きな山犬のことだろうか。


子どもらに囲まれ、首に傷を負った片割れに寄り添うようにしていた、あの―…



『若いの、娘が世話になったなぁ。』










「おぉ…起きたか、アシタカ。」


目を覚ますと傍らにはもう誰もいなかった。

だからてっきり他の者も去った後だろうと、簡単に身支度を整えて外に出れば、そこには二頭の山犬の姿。


どうやら私のことを待っていたらしく、戸惑う私を一目見るなり「さぁ、送って行こう」とケントが身体を起こした。


「すまんなぁ、息子がうるさくして。それで目が覚めたんじゃないか?」

「、いや…」

「まったく、やんちゃ盛りで困ったもんだよ。手に負えない。」

「…………」


ケントはそう言って笑うが、実際静かなものだ。

その『やんちゃ盛り』の息子は今、ただひたすら父親の尾に囓りついている。


「あぁ、そうそう。サンがな、お前さんに『よろしく』と言っていたよ。」

「……そうか…」


特に気にした様子もなく、そのまま歩き出したケントに、私は少し離れたところにいたヤックルを呼び寄せ、その案内に続いた。


痛く、はないのだろうか。

いや、それより彼の者は一体、何をしているのだろう。


ケントを引き留めようとしているように見えなくもないが、そこにさほど力が入っている様子もない。

甘噛み、と言うには少し乱暴すぎるような気もするが。


(私では…人間では、分からぬこともあるのかもしれない。)


そして森の外れで別れを告げる頃には、ケントの尾はすっかりぼさぼさに乱れてしまっていた。





表現

(その時不意に、その耳もまた、よれていることに気が付いた)
(あれは一体、誰に『甘噛み』されたのか)


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178000hitより。
キリリクありがとうございました!




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嘘つき、ロンリー。