東の青年と山犬の姫の兄


「アシタカ…?」


困惑をその顔一杯に浮かべて、ケントはアシタカを見上げていた。

その表情は思いの外幼く、いや当のケントですら自身の実年齢をよく知らぬと言うのだから、もしかしたらそれが年相応なのかもしれない。


なんて苦笑しつつ、ようやくアシタカは撫で続けていたケントの頭からそっと手を離した。


「すまない。嫌、だったか…?」

「いや、別に」


反射的に言葉を返し掛けたケントだったが、不意にその口を閉ざす。

それから少し考えた後に、つい先程までアシタカが触れていた箇所へと恐る恐る手を伸ばしてみた。


「…弟達の頭を撫でることはあるが、俺自身がされることなんてないから……何だか、妙な気分だった。」


『人』の親を持たないケントにとって、それは当然のこと。

戸惑うのも無理はない。


そのことにアシタカは一瞬胸を痛め、だが次の瞬間には緩んだケントの口元に気付き、柔らかく目を細めた。


「私も撫でられたのはもう、随分と昔のことだよ。」

「そうか。じゃあ、」

「!ケント…?」


そして伸ばされた手に、今度はアシタカが戸惑う番だった。

先程のアシタカを真似て数回その頭を撫でると、ケントは「どうだ?」と首を傾げてみせた。


反射的に口を開きかけ、だが先程のケントを倣ってそれを止める。


「…確かに、不思議な気持ちだ。」


自分と同じ感想だったのが嬉しかったのか、アシタカの言葉にケントは満足げに笑った。




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(その指先が白い毛並みを優しく掻き撫でる様を何度も見た)
(だからふと真似してみたくなったのだけれど)

(胸に秘めた想いは、きっと)


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嘘つき、ロンリー。