東の青年と現代人
※トリップ主。
※映画終盤の話。
後悔していることがあった。
猛然と迫り来る禍々しき姿を前にしたあの瞬間、その痩身を己が身で庇うのではなく力の限り突き飛ばすべきであった、と。
さすれば呪いを受けたのはこの身だけ、彼の者は過酷な旅路を味わうことなく今も国許で心穏やかに過ごしていたはずだった。
『さだめとは変えられぬものなのだよ、アシタカ。』
そんな悔恨を見透かしたのか、姫巫女は静かにそう言った。
『あの子は特別だ。そなたも気付いているであろう?獣たちに懐かれ、人々を惹き寄せ、そして―…』
神に、愛される。
それはどこか諦めのようにも聞こえた。
『ではあの時、祟り神が乙女達ではなくこちらに向かってきたのは……』
『…恐らくそなたがその半身を差し出していなければ、今頃あの子は常世の国へと連れ去られていたに違いない。』
『………』
『だから…だからこそアシタカや、どうかあの子を、―…』
「……もう、どうにもならないんですかね…」
前方に立ち上る黒い煙を見上げ、ぽつりと呟くケント。
その右手は頻りに自身の左腕を、そこに宿る「何か」を宥めるように撫でながら微かに震えていた。
それに呼応するかのようにアシタカの右腕がざわめく。
祟り神の呪いを解くための旅路。
それがいつの間にか人間ともののけ達の争いに巻き込まれ、二人はいらぬ傷ばかり重ねてきた。
いや、踏鞴場で放たれた石火矢も山犬の姫が振るった刃も、総てはかの鹿神によって消し去られ、今はもう何一つ残っていない。
ただ、その痛みだけは。
「俺達は、このまま…黙って見ているしか…」
「ケント。」
俯くことも出来ぬまま立ち尽くすケントの右手をそっと握り締めれば、揺れる眼がアシタカへと向けられる。
「行こう、ケント。」
「アシタカさま…?」
「きっとまだ、やれることはあるはずだ。」
「っ、はいっ!」
力強く握り返された手。
それにわずかに目を細めたアシタカは、己が身に潜む青い蛇が、どこか嬉しげに鎌首をもたげていることに気付かない振りをしたのだった。
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(後悔していることが、ある)
(その身を蝕むものは最早、祟り神の呪いなどではないことを疾うに知っていた)
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嘘つき、ロンリー。