河の神と従業員


「おわっ…」


突然視界を横切った緑に思わず身体をのけ反らせた。

が、抱えていた掃除道具のせいでバランスを崩し、そのまま後ろへガラガラガラガッシャーン。


「っ、いってー…」

「気を付けろよ、ケント!」

「んだと!?」


キンキンと独特な声に反論しようとしたものの、顔を上げた時にはもう相手の姿はなかった。

不消化に終わった苛立ちが舌打ちに変わる。


「あんの蛙野郎…っ」


いつか潰して着物の柄にしてやんよ、と息巻いていると不意に頭上に影が差した。


「……何をしている。」

「へ?あぁ、ハク様。ちょっと転んじまって…」


俺よりも小柄なハク様を見上げるなんて、少し奇妙な感覚だ。

なんてどうでもいいことを考えつつ、周りを見渡せば掃除道具は見事一面に散らばっていた。


せめてもの救いはまだバケツに水を入れていなかったことか。

とりあえず手近にあった雑巾に手を伸ばせば、小さく溜息を吐いて手伝おうとしたハク様の手と、


「あ、すんません。」

「、いや……」


微かに触れた肌は少し冷たかった。

逆にハク様にとって俺の肌は熱かったのか、その手は勢いよく離されてしまった。


(……他人に触られること自体嫌いそうだもんなぁ、この人。)

「いいすよ、ここは自分に任せて下さい。」

「…いや、開店時間も近い。私も手伝おう。」


気を遣って言った申し出はあっさり却下された。

でも確かに正論だ。


お言葉に甘え、「じゃあそっちお願いしますね」とハク様に背を向けて回収作業に取り掛かる。


そうこうしてる内に、いつまで経っても来ない俺を待ち切れず、リンの奴が姿を現した。


「はぁ?何やってんだ、お前。」

「うっせ。お前も手伝え。」


言いながら雑巾やたわし、はたきをぽんぽんと投げ入れ、次に箒へ手を伸ばし、


「あ、すんませ」

「っ…リンも来たことだ、私は失礼するっ。」


そう言ったかと思えば、ハク様は立ち上がるとすぐに俺達に背を向けて行ってしまった。


一瞬だけ見えたその頬は、うっすらと赤かった気がする。






たかが然、されど偶

(ハク様って本当、体温が低いんだなぁ…)
(……鈍い奴。)
(あ?何か言ったか?リン。)


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2万hit記念小説より。
『テーマ:一度あることは二度ある』




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嘘つき、ロンリー。