姫の師と愛弟子


腐海を抜けたところで、思わぬ足止めを食ってしまった。


「どうしましょう、ユパ様…」


困ったようにこちらを窺うケントに小さく溜め息をこぼす。

そして視線を落とせば、その片足にがっしりとしがみつく、やや小振りの蟲が一匹。


特に害はなさそうだが、離れる様子も全くない。

無理矢理引き剥がすのも難しそうだ。


「…もしかしたら、その者の好む花の花粉がお前の服に付いてるのかもしれんな。」

「服に、ですか…」

「いざとなったらここで脱ぎ捨てて行く他あるまい。」


決して高価な物ではないが、旅の身の上、必要最低限の荷の中ではやはり貴重だ。

かと言ってこのまま先に進み、どこまで付いてくるのか、この蟲が元の場所に戻れなくなることも避けたい。


出来ればここに留まっている間に何とかしたいところだ。


「ごめんな…俺もナウシカのように蟲笛が使えたら良かったんだが…」


今この場にいない妹に思いを馳せながら、ケントはまるでじゃれつく幼子の相手をするかのように手を動かした。

その指先に合わせて触角を揺らす蟲も、幾分かは楽しんでいるのだろうか。


ケントの手が遠ざかろうとすれば、蟲は後を追ってケントの足をよじ登る。


「あ、こら。」


一先ず蟲はケントに任せ、日の明るい内に今宵の野宿の準備をしようと思った。

ならばもう少し腐海から離れた、風上の方へ移動を―…



「ふふっ…くすぐったいよ。」



そして久しく見ぬケントの無防備な笑みに、思わず一瞬足が止まってしまった。




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(まるで見てはならぬものを見てしまったような、)
(そんな居心地の悪さからそっと目を逸らすのだった)


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嘘つき、ロンリー。