巷で噂の魔法使いと兄弟子


本を睨んでは、紙の上でペン先を走らせる。

その動作を夢中で繰り返していたケントは、自分に近付く人影に気付かなかった。


「ケント様、コーヒーのおかわりはいかがですか?」

「ん、あぁ…もらおうか、な…」


掛けられた声にようやく顔を上げ、次の瞬間には目を見開いて固まる。

小姓の一人と高を括っていれば、ここにいるはずのない兄弟弟子がそこにいた。


「…おい、何してやがる…」


というかどうやって入ってきた。


舌打ちと共に問い掛けながら、辺りへ視線を走らせる。

特に変化はない。


いくら有能なハウルとはいえ、師であるサリマンの目をかい潜るのはそう容易いことではないはずだが


(……先生も結局、ハウルに甘いんだよな…)


気付いていながら放置の姿勢を取るらしい。


それを知ってか知らずか、特に気にした様子もなくハウルがケントの手元を覗き込む。


「イチジク、リンゴ、ザクロ、マンドラゴラにサフランか……どれも媚薬の材料だね。」

「…惚れ薬と言え。」

 

また舌打ち。

机上に散らばった紙を隠すようにかき集め、乱暴に本を閉じた。


とどめとばかりに魔法で紙を燃やす。


「ケント。」

「…何だ…」

「そんな物使わなくても、僕の心は君の」

「アホか。」


全てが完全に灰となり、消えたところで、本を片手に席を立った。


「…敵意をどうにかして好意に持っていければ、戦争もなくなるかと思って少し参考にしてただけだ。」


結局何の役にも立たなかったが、と吐き捨てる。

残念ながらどの効能も、精神より先に身体に効いてしまうのが欠点だった。


(さすが媚薬、と言ったところか…)


「ダメだよ、ケント。」

「あ?」


本を仕舞おうと歩きだした瞬間、腕を引かれて足を止める。

つられて振り向けば、いつになく真剣な表情のハウルが、



「人は愛のために戦うんだ。」



いつになくキザな台詞を言い放った。




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それは甘い甘い、魔薬のような

(…ならお前も戦えよ。)
(勿論、君が僕を愛してくれるならね。)


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アンケートより。
リクエストありがとうございました!




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嘘つき、ロンリー。