巷で噂の魔法使いと兄弟子
「ぶぇっ、くしょんっ!」
盛大なくしゃみと共に暖炉の火が揺れる。
というか、その火がくしゃみをした張本人だった。
「…大丈夫か、カルシファー?」
火がくしゃみ?一体どんな原理だ…?と疑問に思いつつ、ケントが本から顔を上げれば、「うぅっ…なんか急に寒気が…」とカルシファー。
「いや寒気って…お前、火だろ?薪でも足すか?」
呆れながらも腰を上げようとした瞬間、横から伸びてきた手に阻まれ、ソファーへと逆戻りさせられる。
そのことに文句を言うより先に、珍しく真剣な表情をした兄弟弟子と視線がかち合った。
「何だ?」
「…ねぇ、ケント。さっき僕がくしゃみしたら、君は何て言った?」
「『風邪か?移したらただじゃおかないからな、絶対近寄るなよ。』」
「あんまりだ!」
一言一句違えず言い切ったケントに、ハウルは額に片手を当て大袈裟に天を仰ぎ見る。
もう片方の手は器用にも未だケントの腕を掴んだままだ。
ケントは溜め息を吐いた。
「気は済んだか?なら、さっさと離せ。」
「済む訳ない!僕の時は本から顔も上げてくれなかったのに…!」
「この寒い時に暖炉の火が消えたら一大事だろうが。いいから離せ。」
不公平だ何だと、狭いソファーの上で押し問答を(ハウルが一方的に)繰り返していると、勢いよく『家』の玄関の扉が開いた。
外の冷たい風と共に「ただいま!」と駆け込んできたのはマルクルだった。
「お帰り、マルクル。」
「ケントさん!いらしてたんですね!」
「あぁ。外はすっかり寒そうだな。」
「寒かったですよ、息がもう真っ白です!」
「今夜辺り、雪でも降るかもしれないな。」
「うわぁ、雪ですか!早く降るといいなぁ!」
そう無邪気に笑うマルクルの鼻の頭はほんのり赤く、急に暖かい部屋に入ったせいか、次の瞬間には「くしゅんっ」と小さなくしゃみがこぼれ落ちる。
その様子に苦笑しながら、ココアでも淹れようとケントは今度こそ腰を上げた。
そしてその姿に、もう一度「不公平だ!」とハウルが主張しようとした瞬間、不自然にその言葉は途切れ、
「ふぇっ、くしゅんっ!」
誰かが噂しているようだ
(…これは隔離決定だな。)
(!?そんなっ…あ、でも風邪は人に移せば治るって)
(アホか。)
---------------
九周年ニコニコ企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!
戻る
嘘つき、ロンリー。