巷で噂の魔法使いと兄弟子
王宮の結界もそろそろ張り直さなければなりませんね。
と己が師の指示を受けたケントは一人、その作業のために王宮の敷地を歩いていた。
(次で最後か…)
思ったより少し時間が掛かってしまった。
そう溜め息と共に見上げた空はいつの間にかすっかり赤く焼け、すぐさま目を背けたケントはまるで逃げるように足を速める。
幼い頃、どこかの兄弟弟子は「夜が怖い」と泣いていたが、自分はこの夕暮れ時が一番怖かった。
足下にまとわりつく影は常より色濃く見え、少しでも気を抜けばそこから得体の知れないものがこちらに触手を伸ばしてくるような気がしていた。
そして、きっとそれはゆっくりとこの身体を侵食していくのだろう、と。
どろどろと、黒々と、
『どんなにあの子の真似をしたところで無駄だよ、ケント。』
『あんなやつ、』
『あれは特別なんだ。』
『もう諦めた方がいい。』
『なんでそんな、』
『ケント、』
『ケント。』
俯いた幼い自分の肩に代わる代わる置かれた手も。
耳元で囁かれた声も。
そのどれもが優しくて、優しすぎて、
『ケント、』
怖かった。
『だからさァ、早くコッちに―…
「ケント。」
「…ハウル。お前、また勝手に入ってきやがったな。」
「だってケント、最近ちっとも会いに来てくれないじゃないか。」
「何で俺が…というか、今作業の途中なんだ。邪魔するなよ。」
「こんなに暗いのに、作業なんて出来るのかい?」
「……………」
その言葉につられるように、再び空を見上げる。
「もう遅いし、残りは明日にしたらどうかな?」
「……まぁ、それもそうだな。」
いつの間にか、夜になっていた。
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(魔が差すとき、)
(それはいつだってすぐ側に、ある)
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嘘つき、ロンリー。