王子と兄


※映画開始より少し前。










弟の様子がおかしいと、最初に言ったのは確か剣術の指南役だった。

以前自分も世話になったことがあり、剣の腕は勿論その人間性も尊敬出来る方だ。


だから特にその言葉を気にしてはいなかった。

彼の人に任せておけば心配することはないだろうと、そう思っていた。


だが次に聞こえてきた侍女達の声に、ようやく不安が過る。


「アレンが、いない…?」


最後に、私がアレンと会ったのはいつだっただろうか。

ここしばらく父上の手伝いばかりで、ほとんど執務室を出た覚えがない。


いや、そう言えば一度、夜中に寝室を訪ねて来たような





『…兄上、……』





「っ…!」

「ケント様?」

「どうかされましたか?」

「…、いや……それより、本当に姿が見えないのか…?」


恐る恐る繰り返し確かめてみれば、返ってくるのはやはり肯定の意。

ここで彼女達が嘘を吐く理由もないだろう。


ならばアレンは今、……今…?


(私は…今、何を考え……)


「あの、私…もう少し、探してみます。」

「私も。」

「…すまない。頼む。私も気にかけておくよ。」


一礼し、駆けて行く侍女達の背中を見送って、そっと息を吐き出した。


『…夜ももう遅い。話なら、また明日聞こう。』


あの晩、細く開かれた扉の隙間から私を見上げていた暗い瞳。

あれはまるで悪い夢を見た子供のような幼い表情だった。


だが結局、翌日になってもアレンは姿を現さず、私もすっかりそのことを忘れていた。


「………早まってくれるなよ……」


得体の知れない不安がひどく胸を騒がせる。





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初めから総てを知っていた。
(そして、手遅れだった。)


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嘘つき、ロンリー。