黒猫と漁師


ボクがその名前を初めて耳にしたのは、キキが宅急便の仕事を始めた頃のことだった。


飼い猫、野良猫関わらず、仲良くなったみんながそれを口にして、話題にならない日なんてないくらい。


だから少し興味を持ったんだ。


「どんな猫?」

「猫じゃないよ。ニンゲンのオスさ。」

「すっごく優しくて、近寄ったら頭を撫でてくれるんだ。」

「それにとってもいい匂いがするしね!」

「ふーん…どこに行ったら会えるの?」

「それが、町にはあんまり帰ってこないんだ…遠くでお仕事してるみたい。」

「でも町にいる時はよくオマワリさんと一緒にいるのを見かけるよ!友達なんじゃないかな?」


オマワリさんといえば、ボクらがこの町に初めてやって来た時にキキを呼び止めた、あのいけすかない奴じゃないか!

それを聞いた瞬間、好奇心が敵対心に変わる。


あんな奴の友達なら、きっといけすかない奴に違いない!

みんなはそいつを誉めるけど、ボクは絶対に騙されやしないぞ!なんて意気込んでみたりして。



「あ、ケントさんだ!」
だからその名前を耳にして、真っ先に反応してしまった。


振り向いた先の、坂の向こうからこちらに登ってくるのは見たことのない人間。

パンみたいにこんがりと焼けた肌を一目見て、まさか「いい匂い」ってパンの匂いじゃないよな?と首を捻る。


そこに、風に乗って漂ってきた匂いは―…









「オソノさん。私、そこですごいの見ちゃった。」

「見たって、何を?」

「あのね、たくさんの猫を引き連れて歩いてる男の人!」

「あぁ、それはきっとケントだね。」

「ケントさん?」

「船乗りでね、時々この町に帰ってくるのさ。そう…もうそんな時期なのねぇ。」

「だから私、今まで会ったことなかったのね。でもケントさんって本当、すっごく猫に好かれているみたいね。ジジもケントさんを追いかけて行っちゃった。」

「昔からそうなのよ。きっと魚の匂いでもするんじゃないのかい?」





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(だって、猫だもの!)


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嘘つき、ロンリー。