伯爵とカゲ
「全く…ジョドーめ、無粋なことをする。」
そう言って俺の手を踏みつける伯爵を、いつだったか、ジョドー様が「戯れが過ぎる」と嘆いていたのを覚えている。
全くその通りだと思っていると、まさか俺の考えが読めたのか、ますます右手に体重を乗せられてしまった。
流石に折れはしないだろうが、仕事に支障が出るような怪我は少しでも避けたい。
落ちた物を拾う、ただそれだけの単純動作の何がそんなに気に食わなかったのだろうか。
伯爵が落としたスカーフは未だ、俺の指先数ミリの位置に落ちたままだった。
「ケント。」
ふと呼ばれた名前に顔を上げようとして、だがそれより先に伸びてきた手が俺の顎を下から掬い上げた。
愉しげに細められた目と視線が絡み合う。
「お前もお前だ。嘘でも痛がる素振りぐらい見せて、私を楽しませたらどうだ?」
「…………」
それこそ「戯れが過ぎる」話だ。
とうの昔に一通りの拷問に慣らされてしまい、最早「痛い」という概念さえ解らない。
いや、そもそもそれはカゲの役目ではないだろう。
表向きに割り当てられている整備士という立場でも、やはり違う。
「…全く、人形を相手にしているようでつまらんな。」
しばらくその武骨な親指で軽く俺の唇を撫でていた伯爵は、そう呆れたように吐き捨てながらようやく俺を解放した。
右手は少し痺れていたが、特に問題はなさそうだ。
二、三度開いて閉じてを繰り返し、それを確認してから本来の目的を遂行する。
そして拾い上げたそれを差し出せば、伯爵は鼻で笑うだけで受け取ってはくれなかった。
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(方膝着いての献上)
(形だけの忠誠心)
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嘘つき、ロンリー。