東の青年と現代人
※トリップ主。
※映画序盤、西に旅立つ少し前の話。
昔から何となく動物に好かれるたちだった。
そのせいで困ってしまったことも何度か、ある。
例えば、バスに乗りたいのに犬が足下にまとわりついて離れなかったり。
例えば、トイレに行きたいのに猫が膝の上からどいてくれなかったり。
だけど言葉の通じない相手には決して悪気などなく、確かに困りはしたものの、それほどの害はなかった。
だから「まぁ、仕方ないか…」と苦笑してそのままそれっきり、何も対策をしようとしてこなかった俺がきっと悪かったんだと思う。
アシタカさんとは違い、タタリ神に襲われた瞬間気絶してしまった俺はすぐに小屋に運ばれてその姿を見ていないが、元は大きな猪だったと後から聞かされた。
ならあの時、アレがカヤちゃん達の方ではなくこちらに向かってきたのは間違いなく俺のせいで、アシタカさんはそれに巻き込まれただけ。
俺が、巻き込んでしまっただけ。
(タタリ、かぁ…)
自分の左腕を見下ろして、続いて隣のアシタカさんの右腕をちらりと盗み見る。
どちらにも同じ赤黒いアザがあり、ヒィさまが言うにはいずれは骨まで届いて死に至らしめるらしい。
呪いも死もいまいちピンとこない俺を除いて、その話を聞いていた村の人々はまるで通夜の席のようだった。
(…せめてアシタカさんだけでも、どうにか出来れば…)
俺は動物に好かれるたちだ。
タタリ神と言えど相手が元猪なら、もしかしたらこれまで通り、困りはするもののそれほどの害はない、のかもしれない。
だから今からでも何とか…なんて、アシタカさんの腕に向けて伸ばした手が、指先が触れようとした瞬間―…
「―…ケント。」
ざわ、と。
ほんの一瞬アザが動いたように見えた、かと思えばアシタカさんの腕が離れていき、反射的に顔を上げる。
「?アシタカさ、」
こちらに向けられていたのはいつもと同じ、真っ直ぐな眼差し。
(いつもと、同じ?)
「今、何をしようとしていた?」
「何って…」
「この呪い、総てをその身に引き寄せようとしていたのか?」
「え、」
心を読まれたのかと思い、一瞬ドキッとした。
だけどそう言えば、二人のアザは同じタタリ神のものだから繋がっている、ような話を聞いたことを思い出す。
共鳴、みたいなものだろうか。
「や、だ、だって…元はといえば、俺のせい、だし…俺一人ならもしかしたら」
「ケント。」
俺の名前を呼ぶ声はとても静かだった。
静かすぎて、思わず息を飲んだ俺自身の音まで聞こえたような気がしたほど。
「そんなことは考えなくていい。」
そこでようやくアシタカさんが怒っていることに気が付いた。
初めて見るその様子に慌ててしまったものの、しどろもどろに謝罪を繰り返す俺に呆れたのか、苦笑しながらもすぐに許してくれたアシタカさん。
そして、今度はアシタカさんの方から俺の左腕にそっと優しく触れたのだった。
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(死するときは一緒だと、)
(そう定められているのだから)
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嘘つき、ロンリー。