特務大佐と従者
※「バルス」直後。
あのパズーという少年、本当にかなりの石頭だったようだ。
頭突きを食らった鳩尾が未だに痛み、その辺りを撫でながら小さく息を吐き出した。
そして次の瞬間には足下の石畳が抜け落ち、慌てて体勢を立て直す。
「くっ…!」
この天空の城が崩壊し始めたのは、つい数分前のこと。
最初はゴリアテを攻撃した時のような、何らかの意図があるのだろうとそう思っていた。
シータ様が、パズーと共に城から離れる姿を見るまでは。
(一体、何があった…?くそっ…やはり別行動なんてすべきでは…)
いや、後悔するのは後回しだ。
まず今は状況把握、そして何よりムスカ様の下へ駆け付けることが先決。
そうさらに足を速めたところで、落ちてきたブロックを避けた。
(確か、城の構造を調べるために小型機を持ち込んでいたな…あれが無事なら、何とか脱出することも)
『私のいるべき場所は、ここではないのだよ。』
不意に脳裏を過ったのは、いつかの言葉。
一瞬の躊躇いが生まれ、思わず立ち止まりそうになった。
(…最早、崩壊は止められない。だがここを無事脱出したところで、地上に降り立ったところで、ムスカ様はそれをお望みになるのか…?)
無論、御身をお守りするのは己が役目である。
だが、それと同時に主の望みを叶えるのも己が務め。
(考えろ…考えるんだ…)
―…この目は、王の姿を見るために。
―…この耳は、王の言葉を聞くために。
―…この口は、王へ賛辞を贈るために。
―…そして両の腕を王に捧げ、両の足で王の道を切り開く。
―…心を砕け、それを誉れとせよ。
―…我がすべてはただ、ラピュタ王の為だけに在る。
幼少より繰り返し教えられてきた言の葉を、もう一度自分自身に言い聞かす。
崩壊の音に紛れ、鼓動の音が聴こえる。
そして、己の名を呼ぶ声も。
「ケントっ!」
その瞬間、決意した。
「…今日はいい天気ですね。」
庭先で日光浴をする男に、飲み物を運んできた青年がそう声を掛ける。
すると、それに対して男は鼻で笑った。
「ここで日々天気を気にするとは、可笑しな話だとそうは思わないかね?」
「仕方ありません。先の飛行石の暴走で幾らか高度が下がり、ここは雲の下に出てしまいましたから。」
「下界の様子は?」
「ゴリアテを墜としたのが余程効いたのでしょう。今のところ、こちらに向かってくる者もおらぬようで…あぁ、ムスカ様。カップはこちらに。」
傍らにあるテーブルの上をさ迷う手に気付き、目的の物を手渡す。
それがしっかりと握られたのを確認し、青年はそっと溜め息を吐き出した。
「ケント?」
「…シータ様のこと、誠に残念でした。」
「それこそ可笑しな話だ。今更、あの娘のことなど、どうでもいいことだろう。」
「ですが、本来ならばこれは、妻となるあの方のお役目だったはず。たかが従者の分際で主のその身に触れるなど、なんて恐れ多い」
「構わん。」
離れようとしていた青年の手を追い、男がその指先を掴む。
青年の肩が揺れる。
「君は特別だ。」
そう言って男が笑うと、青年は一瞬開きそうになった口を閉じ、その御前に跪いて頭を垂れるのだった。
「…光栄に、ございます。」
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王を欺いた罰は甘んじて受けましょう。
ですがどうか貴方は何も知らぬまま、平穏な最期を迎えられますように。
(王が居れば、そこが玉座なのだから)
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嘘つき、ロンリー。