空賊三男と料理人
不本意ながら空賊船の台所を任されることになって、早一年余り。
気付けば当初感じていた使い勝手の悪さにもすっかり慣れ、最早逃げる気など綺麗さっぱり消え失せてしまっていた。
まぁ、付き合ってみるとそう悪い連中でもないし…なんて毒されてしまった証拠かもしれない。
限られた条件の中でいかに働き盛りの野郎共の胃袋を満足させられるか、料理人として腕の見せどころ…は少し前向きに考え過ぎだろうか。
「はー、食った食ったー。」
「うまかったー。ごちそうさんー。」
そう口々に立ち上がった今晩最初の見張り組を見送って、残った面々の顔を見渡す。
「おかわり!」の波も通り過ぎ、ほとんど食後の休息ムードが漂っている。
操縦室の方にもすでに食事を届けており、あと残す仕事は皿洗いぐらいだ。
だから今の内に俺も食っておこうと、何気なく空いた席に腰を下ろした瞬間。
ふと隣に座る男の異変に気が付いた。
「……アンリ。お前、少し肥ったか…?」
言いながら、飯を掻き込むその脇腹に触れれば「くすぐったい」と笑うアンリ。
構わず数回撫で、何気なくその指先に力を込めた瞬間、軽くそれを摘まめてしまい、思わず衝撃が走る。
想像以上に、柔らかな感触。
「?ケント?どうかした?」
「い、いや…その……なんか、悪い…」
「??」
カロリー?糖質?
ただひたすら食いでのあるものを…とばかり考えて、その辺りはあまり深く考えてこなかった。
しかし、だとするならば。
他の船員達も体格はいいが、俺がこの船に乗った当初からさほど変わったようには見えないのは何故だ。
「おかわり!」の回数に個人差は確かにあるものの、全体量はそう大して違わないはずだ。
「ケントは…少し痩せた?」
「そうか…?」
色々と一人考えを巡らせていた俺は、アンリの声に上の空で応えながら自分の腰に回された腕にも気付かなかった。
そして次に続くアンリに言葉にも、反射的に、適当に相槌を打っていることにも気付かないのだった。
「ケント、飯が冷めちゃうよ。俺、食ってもいい?」
「あぁ。」
見逃した決定的瞬間
(十中八九、原因はそれ)
(そしてあまりにも見慣れてしまった光景に、誰もそれを指摘することはなかった)
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七周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!
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嘘つき、ロンリー。