美しき歌姫と演奏者
グラスを傾けるその指は、相変わらず細くて長い。
だけど以前のような、女性のような美しさは薄れ、少し節くれだった無骨さが目立つようになっていた。
「もう随分と弾いていないからね」と笑ったのは彼で、残念だと漏らしていたのは確かフェラーリンだっただろうか。
「今の方が好きよ、私は。」
そう言って、そっとその指に自分の指を絡ませてみれば、その人は困ったように笑う。
笑うだけで、決して握り返そうとはしてくれない。
「ありがとう、シニョリーナ。」
『妹』に見られるならまだマシな方。
でもその人にとっての私は、ただの『子供』でしかなかった。
昔も、そして今も。
「ところで、マルコの奴はちゃんとここに顔を出しているのかい?」
「ふふっ…貴方はいつも二言目にはそれね。」
「そうだったかな…いや、この年になると忘れっぽくって困る。」
そして自然な動作で、ゆっくりと振り払われる手。
少しだけそれに未練はあったものの、掲げられたワインボトルに気付かなかったフリをした。
代わりに空のグラスを差し出す。
「…私はね、ジーナ。二人が結ばれるのを心待ちにしているんだよ。」
とくとくと注がれる音がやけに大きく聴こえる。
いつもなら背景に流れるピアノの音に掻き消されるほど、小さな小さな音なのに。
「君の、これまでの人生が不幸だったなんて言うつもりはないんだ。ただ、ただね、ジーナ…」
(あぁ、そうだったわ…)
「君の涙だけは、どうしても苦手なんだ。」
私の目の前にいるのは、困ったように笑う『ピアニスト』だった。
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愛に昇華すること叶わず、拗らせた恋心は未練がましくも永久に美しい。
(それを初恋と呼ぶのだと、)
(そう歌っていたのは誰だったかしら?)
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嘘つき、ロンリー。