紅豚と後輩
※現役時代。
屋外喫煙所。
とは言っても、そこにあるのは錆びたドラム缶が一缶と、日差し避けには少し頼りない木が一本だけ。
元々正式なものではなく、旧格納庫の裏手を誰かが喫煙所として利用し始めたのが発端らしい。
自分が入隊した頃には、すでにパイロット達の溜まり場と化してしまっていた。
「先輩。」
「ん…」
「そろそろ時間じゃないですか?」
「あぁ…」
そして一人、また二人と仲間達がその場を去って行く中、未だ灰皿代わりのドラム缶の前を陣取っているのは、空軍エースただ一人。
だが何度促しても気のない返事ばかり返され、思わず溜め息をこぼす。
出発前の、最後の一服。
それがヘビースモーカーにとってどれほど貴重な時間なのか、解らない訳ではなかったが。
「ケント。」
「はい?」
吐き出された紫煙が、消えかかった『火気厳禁』の看板に当たって霧散する。
その光景をぼんやりと眺めていたせいで、一瞬反応が遅れてしまった。
「拗ねるなよ。」
「…別に、拗ねていませんよ。ちょっと検査に引っ掛かっただけで、次は大丈夫です。」
口早に応えながら、自分でもまるで言い訳のようだと感じる。
いや、実際最後の言葉は自分自身に言い聞かせたものだったのかもしれない。
次は、大丈夫。
「……すみませ、んっ?」
謝罪を口にしかけた瞬間、突然吸いかけの煙草を差し込まれて慌ててそれを閉ざした。
不意を突いた煙が肺に堪え、一、二度咳き込む。
「それでも銜えて、大人しく待ってろ。」
そして生理的な涙まで浮かび始めた頃、先輩はそう言って笑ったのだった。
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(いつか自分も、)
(この味を理解することが出来るだろうか)
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嘘つき、ロンリー。