楽器職人見習いと同級生
ささやかな日常。
「……げ。」
トイレから戻ってみると、黒板の文字が全て綺麗に消されていた。
時計を見れば昼休みが始まって、まだ10分足らず。
今日の日直は少しはりきり過ぎだと思う。
(まだ写してねぇとこあったのに…)
仕方ない、誰かに借りるか。
そう思い、とりあえず近くでトランプ遊びに興じる友人達に近寄ってみた。
「はい、ダウトー。」
「ぐっ…」
「相手になんねぇな…あ?」
「なぁ、誰かノート貸してくんね?」
「ノート?何の?」
さっきの授業の、と言いかけて止めた。
よくよく考えれば昼飯直前の、魔の古典授業。
よほど真面目でない限り睡魔の餌食だ。
ということは、こいつらがノートを取っている訳がない。
「…いや、やっぱいいわ。」
「いいのか?」
「ちょっケント!助け」
「はい、ダウトー。」
何か聞こえた気がしたが、今はそれよりノートだ。
教室内を見渡すと、程よく真面目で程よく声を掛けやすい同級生を見付けた。
「なぁ、ノート貸してくんね?さっきの古典。」
「古典?あー…悪い。他の奴に貸したばっかりだ。」
一足遅かった。
だが、まだ諦めるのは早い。
視線をその隣に移す。
「天沢、貸してくんない?」
「え…」
声を掛けられるとは思ってなかったらしい。
俺も流れで声を掛けたんで無理もない。
「お前も誰か貸した?」と続ければ、「いや、」と少し歯切れの悪い返事。
「……ほら。」
無愛想に差し出されたノート。
それを受け取りつつ、引き換えにポケットから飴を一つ取り出し、差し出してみる。
「これ、お礼な。」
「は…?」
「あとはまぁ、お近づきの印に?」
冗談っぽく小さく首を傾げ、問答無用で握り込ませる。
横から「学校に持ってきちゃダメだろー」と笑い声がしたが、やっぱり程よく真面目だ。
「サンキュ。これ、すぐ返すから。」
「あ、おい…っ」
有言実行とばかりに自分の席に向かう。
何とか昼休みの内に返したい。
すると、俺と天沢のやりとりを見ていたハイエナ達が悪乗りしながら寄ってきた。
「おうおう、いいもん持ってんじゃねぇか。」
「ちょっとこっち来て、お兄さん達と賭けしない?」
「お前ら、どこのチンピラだ。」
構っている暇はないとそれぞれに一つずつ飴を渡し、どこか疲れ果てた三人目には袋ごと押し付けた。
「おまっ、ケント…!」
「おうおう、いいもん持ってんじゃねぇか。」
「ちょっとこっち来て、お兄さん達と賭けしない?」
そして無事、標的が移ったのを確認して俺は天沢のノートを机の上に広げた。
--------------
レモン味の飴はいかが?
特に深い意味はありません。
---------------
アンケートより。
リクエストありがとうございました!
戻る
嘘つき、ロンリー。