楽器職人見習いと兄


※攻主?









「随分難しそうな本を読んでるな。」


そんな声と共にガタンと目の前の椅子が引かれ、誰かがそこに腰を下ろした。

つられるように聖司が顔を上げれば、とっくに外出していると思っていた大学生の兄の姿が。


「何が面白いのか、俺にはさっぱりだ。」


いつの間に手に取ったのか、ケントはテーブル上に積んであった本を一冊、大して興味もなさそうに適当に頁を捲っている。

そのぞんざいな態度に一言文句を言おうとして、聖司はふとその口に銜えられた煙草の存在に気が付いた。


「…ここで吸うなよ。また母さんに怒られるぞ。」

「お前、折角の休みの日に遊ぶ相手もいないのか?」

「別にどうでもいいだろ。あとそれ、返せよ。」

「寂しいやつだな。」

「いいから早く返せって!」


わざとやっているとしか思えないほど噛み合わない会話に苛立ちが増し、とうとうテーブル越しに身を乗り出して手を伸ばした。

だが「おっと、」とケントはまたわざとらしくそれを遠ざけ、意地悪く笑ってみせる。


意地になって聖司がさらにその後を追おうとすれば、本を持っていない方の手がそれを捕まえた。


「っ、おい…っ!」

「顔は悪くないはずなのにな、勿体ない。」


同じように身を乗り出したケントが顔を寄せると同時に、ツンと鼻先を刺激する煙草の臭い。


妙に甘いそれに一瞬、息を詰める。


「何なら、俺が口説き方を教えてやろうか?」

「は、」


その一瞬の隙を突かれ、フッと吹き掛けられた紫煙に思わず噎せてしまった。


そして何度か咳き込みながらも睨めば、「そう怒るなよ。冗談だろ?」と笑いながら悪びれた様子もなくまた煙草を吹かし始めるケント。

聖司は一向に引かない顔の熱をケントから隠すように、そっぽを向いた。




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(キ、ス…されるかと思った、なんて…)


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嘘つき、ロンリー。