山犬の長と盟友
※山犬主。
「おい。その餓鬼、どうした?」
まさか拾ったなんて言うんじゃないだろうな?
そうどこか愉しげに問う声に一度だけ鼻を鳴らし、毛繕いを続ける。
手元には薄汚れた布とそれに包まれたものがあった。
「知らないよ。人間が勝手に投げて寄越してきたのさ。」
「人間が?」
その答えは予想外だったのか、ケントは一瞬目を見開いて、だが次の瞬間にはまた愉しげに細められた。
元より大きな口がさらに大きく開かれる。
「っく、はははははっ!こりゃあいい!人間はそんな餓鬼一匹で山犬の怒りを収められると思うておるのか!」
なんと可笑しいことか。
なんと愚かしいことか。
笑い続けるケントを横目に、毛繕いを続ける。
不思議なことに、ケントの笑い声の中でも赤ん坊は泣かなかった。
「くくっ…まぁ、いい。それでお前はどうする?」
「どうするって何がだい?」
「決まってるだろう?それのことだ。喰うのか?捨てるのか?それとも、」
続けた言葉はきっと、戯れだったに違いない。
だからこそ視線を逸らしてやれば、それまでにやにやと笑みを浮かべ続けていたケントの顔は一変した。
「おい?まさか、お前…」
「うるさいねぇ…さっきからべらべらと。」
「止めとけ止めとけ。人間の寿命などたかが知れてる。」
「ふん。あたしたちだって同じ、明日も知れない身じゃあないか。」
そんなのあんたが一番よく知っていることだろう、と言ってやれば流石のケントも言葉を詰まらせた。
人間に狩られた同胞はこれまでに数知れない。
そこで不意にそれに思い当たった。
「…もしかしてあんた、あたしの心配してくれているのかい?」
情を持ったが故に悲しまぬように、と。
情を持ったが故に命を落とさぬように、と。
「…はっ、冗談じゃねぇや。」
ぶっきらぼうなその返事に今度はこちらが笑ってしまう。
それがやはり気に食わなかったのか、しかめっ面でそっぽを向くケント。
「精々壊さねぇようにするんだな、モロ。」
そう吐き捨てて、人里へ駆けていく後ろ姿を見たのが最期だった。
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その時、赤ん坊は―…サンは初めて泣き声を上げた。
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嘘つき、ロンリー。