山犬の姫と蛇
不意に白い山犬が二匹、慌てた様子でやって来た。
何事かと思えば、末の姫がいなくなったとか。
「まさか私が一飲みしたとでも?…いやいや、まさか。軽い冗談だよ。」
きゃんきゃんと噛み付く姿はまだまだ若い。
あの気高い母君のような山犬になるには程遠いなと、思わず苦笑した。
「モロは何と?…あぁ、その通り。心配せずとも大丈夫さ。」
そう言ってやったものの、二匹には気休めにしか聞こえなかったらしい。
二匹は顔を見合わせた後、小さく礼をし、すぐに走り去ってしまった。
あれは恐らく、まだまだ探し続けるだろう。
「……さて。」
少し罪悪感を感じながら二匹を見送り、振り向く。
「少しは落ち着いたかね。」
とぐろを巻いた体を少し弛めれば、その中心に小さな姿が現れた。
件の者だ。
自身も先の兄弟らの声を聞いていたのか、ただでさえ小さな痩身を縮こませ、膝に顔を埋めている。
どうやらもう泣いてはいないようだが、返事はない。
「どうした、サン。また猿どもに何か言われたか?」
生憎、沈黙は苦手な性分だ。
言葉を重ねて問い掛ける。
しばらく待ってもう一度、と口を開きかけたところでぼそぼそと聞こえてきた。
「ん?」
「……ケントは、この森で一番賢いんだろう…」
「んん?」
「っ、わたしはっ、山犬ではないのかっ…?」
勢いよく顔を上げたサンは肩を震わせ、声を震わせ、叫ぶ。
私を睨むような目にはもう涙はなく、だがどこか縋るような色も含んでいた。
一瞬、躊躇いが生まれる。
「……サンはモロの娘、それでよいではないか。」
さぁ、そろそろ皆のところへお帰り。
そう促して、兄弟らと同様にその小さな後ろ姿を見送った。
「…なんて憐れな娘子かね。」
そして、その呟きは誰にも届かない。
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蛇とは狡賢い生き物よ
そして古より人の子を欺くものと決まってる
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嘘つき、ロンリー。