東の青年と兄貴分
強くなれ、とその人は言った。
誰よりも強くなれば総てを守ることが出来るのだ、と。
『きっと強くなってみせます。誰よりも…あにさまよりも!だからー…』
それは幼子なりの、精一杯の宣誓。
それに一瞬目を丸くしながらも、決して揶揄することなく、その人は柔らかく微笑んだ。
『そうか…楽しみにしてるよ、アシタカ。』
「…よく覚えているなぁ、そんな昔の話。」
確かあれはまだ、俺の方が頭一つ分は高かった頃のことじゃないか。
そう言って笑うケント様は相棒のアカシシに跨がり、いつかと同じようにこちらを見下ろしていた。
「しかし『強くなれ』なんて、我ながら偉そうなことを言ったもんだ。」
「あの時の、あのあにさまの言葉が今も私の支えなのです。」
「止せよ。子どもの言うことだ、どうせ誰かの受け売りに決まってる。」
「ですが、交わした約束は紛れもなく私達のもの。」
約束。
その言葉を口にした瞬間、ケント様の瞳が揺れるのが薄暗い月明かりの下でもよく分かった。
そして「本当に、よく覚えているな」とこぼれ落ちる溜め息。
だが、そう話すケント様もそれを忘れてはいなかったのだと思うと、ただただ嬉しかった。
「なぁ、アシタカ。今ならまだ間に合うぞ。後で仕置きは受けるだろうが、見送りだけに」
「あにさま。」
村の乙女らを守るため、その身に受けたタタリ神の呪い。
ケント様が今向かおうとしているのは、その因果を辿る、いつ終わるとも知れぬ旅だ。
「…ヒィさまの言う通り、これは俺の定めだ。お前が付き合うことはない。」
ならば、なおのこと。
言葉を続けながら、私はヤックルの背中に飛び乗った。
「あの日…約束を交わしたあの時から、あにさまの定めは私の定めです。」
同じ高さで視線が絡み合う。
するとケント様はもう一度溜め息を吐き、そしてまたいつかと同じのように微笑むのだった。
ゆびきりげんまん
(「強くなるから、守ってみせるから嫁に来てくれ」なんて、)
(正に子どもの言うことだ)
(だから、敵わない)
----------------
117500hitより。
キリリクありがとうございました!
戻る
嘘つき、ロンリー。