東の青年と乙女の兄
※映画導入部分。
「嫌だ。俺は行きたくない。」
そう断固として動かない姿勢を取って見せれば、困り顔の同輩に責めるような目付きの妹。
いや、二人の言いたいことは解っている。
特にカヤの方は「あにさまを困らせるなんて…!」といったところか。
だが、俺も一応『あにさま』のはずなんだが。
それも、実の兄なんだが。
「ケント…」
「絶対行かないからな。」
「これもそなたのためなのだ。」
「…………」
アシタカの態度が真摯であればあるほど、カヤからの視線が辛辣になって本当に辛い。
だが、俺が悪い訳ではない。
それもこれも、あのタタリ神のせいだ。
事の起こりは数刻前。
いつものようにアシタカに勝負を挑もうと、その姿を探していた俺はふと妙な胸騒ぎを覚えた。
後から思えば、きっとあれは兄としての第六感的なものだったのだろう。
そんな見えない『何か』に導かれ、辿り着いた先で見たものに俺は度肝抜かれてしまった。
襲われるカヤ達乙女に、それを颯爽と救ったアシタカ。
そして、タタリ神の反撃。
「…しかし、あそこでそなたに庇われるとは思いもしなかった。」
「いや、だからあれはだな…」
感極まったかのように俺の腕を取り、そこにある痣を愛おしげに撫でるアシタカにもう何度同じ説明したことか。
一向に通じない話に少しうんざりしてきた。
カヤからの視線が、ますます痛い。
「お前にもし何かあったら、あれだ…その……カ、カヤは!妹はどうなる!?」
日頃散々「カヤは渡さない!」と言い続けてきた俺だが勿論、この村にアシタカ以上の男はいないということも嫌というほど知っている。
認めたくはないが、認めるしかない。
認めたくはないが。
だから俺はあの時、咄嗟にアシタカを突き飛ばして呪いをこの身に受けたのだ。
全てはカヤのためで、断じてアシタカのためなどではない。
「そう照れなくてもよい。」
「照れてない。」
「だが、この呪いを解くには一刻も速く西に向かわなければ。」
「話を聞け。」
確かにヒイさまは「西で何か不吉なことが」云々とおっしゃっていたが、だからと言って俺はどこかに行くつもりなど毛頭なかった。
このままでは死んでしまうというのならそれも定め、甘んじて受け入れよう。
誰が可愛い妹を一人残して旅立つものか。
「ケント…」
「…まぁ百歩譲って仮に俺は旅立つとしよう。だが何故それにお前が同行するんだ?」
「それは、そなたのその痣が私のために」
「だからお前のためなんかじゃ…というか、それでは本末転倒だろうが!」
千歩譲ってカヤの花嫁姿は諦めるとしても、嫁ぐ相手はアシタカ以外には譲れない。
認めたくはないが。
心の底から認めたくはないが!
「兄さん。」
と、不意にそれまで沈黙を守っていたカヤが口を開いた。
体裁こそアシタカの味方をしているが、カヤだって内心では俺と同じ気持ちのはず。
そうだ!ならば今こそ、その思いの丈をぶつけて……
「あにさまを困らせないで。」
………俺が悪いのか?
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(…いや!俺は悪くない!だからどこにも行かない!)
(ケント…あまり我儘を申すな。)
(そうよ、兄さん。)
(我儘か!?俺!?)
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嘘つき、ロンリー。