外伝奇集

想ひ叶ふ


一度は諦めた、望み










「…それで?いつまでこうしているつもりだ?」


呆れたような、ケント殿の声。

そこに少し責めるような色合いを見出だしたものの、それでも私はその腕を弛めることはしなかった。


踏鞴場の復旧も順調に進んでいるとはいえ、その中心を担うケント殿は未だに多忙の日々を送っている。


だから少々注意力が散漫になっていたのだろう。

方々から得た報告書に夢中で、どうやら足元に転がる石に気付かなかったらしい。


勿論ケント殿のことだ、きっと私が何もせずとも大事には至らなかったはず。


だが眼前でぐらりと傾いたその細い身体に、私は衝動を抑えることが出来なかった。

そして衝動のまま、気付けば背後から抱き留めていた。


「以前はまるで腫れ物を扱うかのようだったというのに、随分と大胆になったものだなぁ。」


返って来ない返事に焦れたのか、未だ己の腰に回されたままの両腕を見下ろしてケント殿が苦笑する。

確かにたった一瞬、指先が触れ合っただけで反射的に身を引いていたのは私の記憶にも新しい。


「…そなたに触れてよいものか、迷っていたのだ。」


正直それは今も同じだ。


一目見た時から、この肌に触れてみたかった。

この温もりを掻き抱く夢想もした。


だが穢らわしい呪いを宿した身で、この美しい人に触れるのはひどく躊躇われ、


「案ずるな、アシタカ。」


そんな葛藤を見透かしたように、宥めるようにケント殿が私の腕を撫でる。

それこそ先刻のケント殿の言葉のように、まるで腫れ物を扱うような手つきで擽ったく、もどかしい。


ぞわりと背中に奇妙な快感が走った。


「…まったく、俺も甘くなったものだな…」


そして小さく呟かれた優しい声に、思わず私は抱きしめる腕に力を込めるのだった。






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二度と手放せぬ、温もり


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嘘つき、ロンリー。