外伝奇集

vs唐傘連〜再戦


踏鞴場無き跡を未だ執拗に付け狙う大名。

手下共の離脱に沈黙を守り続ける師匠連。


敵など数え挙げれば幾らでも。


そして、それは必ずしも外ばかりにいるとは限らない。



「―…つい先程、そこで女共が話し合っているのを聞いたのだが。」



定期的に開かれる集いにて、そう同志の一人が話し始めたのがきっかけだった。


「そろそろいい頃合いだと、エボシ御前に話してみようかと、何やらこそこそ耳打ちを。」


途端、その場にいる全員が身を乗り出すように顔を突き合わせ、目配せし合う。


「頃合いとは?」

「一体、何をエボシに話すと?」

「や、分からん。なんせ、こちらに気付くとはたと話すのを止めてしまってな。」

「それは怪しい。」

「何やら企みがありそうだ。」

「我々が邪魔になったか。」


一切確証はなかったが、一切の疑いもなかった。

むしろ、そんなものは必要なかった。


「所詮、我らは余所者。早々にここを立ち去ろうぞ。」


大義は得たり。

誰もがこの時を待っていた。


「では、ケント様に報告を。」

「石火矢衆はどうする?」

「奴らはここでの生活が長い。中には女房がおる者もおる。呼び掛けても応じはしまい、捨て置け。」

「地走り連中は?」

「あれらは捨てても勝手に付いてくる。放って置け。」

「問題はあの男か…」


一瞬の沈黙の間に鋭い視線が交わされ、嘲笑が零れる。


「ふん…何故我らが戦わずして退くと思うておる?あの偽善者が何を選ぶか、見物だな。」


と、そこに声が掛かった。


「ちょっと!そこのあんた達!」


件の女達の姿に反射的に身構えたものの、女達は不思議そうにするばかりで特に気にする様子もなく、


「あんたら、確か唐傘だったね?ちょっと話があるんだけど―…」










「ケント様っ!」


報告の途中、突然駆け込んできた唐傘連が数人。

その取り乱しようがあまりに珍しく、一瞬それとは気付かずに吹き矢を吹くところだった。


ケント様もその様子に訝しげに眉を顰める。


「何事だ?」

「一刻も早くここから逃げましょうっ!」

「お早くっ!お早く…っ!」


不意にケント様の目がこちらへと向けられ、慌てて首を横に振る。

たった今「異常なし」と報告したばかりだ、冗談じゃない。


そうこうしている間に、今度は女達がやって来た。


「ちょっと待ちなって!まだ話は終わっちゃ……あら?」

「何だ、もうケントに言っちまったのかい?あんた達も気が早いねぇ。」

「いや、俺はまだ何も聞いてはおらんのだが……」


ますます訳が分からず、「一体、何事だ?」とケント様が再度問い掛ける。


「ケント様っ!こやつらの話を聞く必要はありませんっ!さぁさ、お早くっ!」

「いいから、お前達は少し黙っていろ。…それで?」

「いやねぇ、ここも大分落ち着いてきたことだし、そろそろいいんじゃないかって思ってさ。」

「ほら、ずっと後回しにしてきたあれだよ!あれ!」

「あれ?」

「ケント様っ!」

「祝言だよ!ここらでぱぁっと祝おうじゃないさ!」

「は、」



しゅうげん?



「あー…いや、なるほど…確かにあれから幾つか番が出来ておるしな。まぁ、いいのではないか…?」


戸惑いながらも気を取り直したらしいケント様が頷く。


だが、それだけか?

それだけのことで、唐傘達はああもひどく取り乱したというのか?


もっと他に理由が、



「じゃあ決まりだね!これであんたとアシタカ様も正式に夫婦だよ!」



その瞬間、思わず息を飲んだ。


「……何だと?」


傍らで唐傘達が悲鳴を上げるのが聞こえた。




---------------
(戦わずして、負け?)


---------------
リクエストありがとうございました!

*前

戻る

嘘つき、ロンリー。