拓馬と番犬


「あらあら、ワンちゃん。今日も見回り、ご苦労さま。アメちゃん食べる?」


柔らかに微笑む上品な老婦人が差し出すそれに、『犬』は鼻を寄せ、しばらくクンクンと匂いを嗅いだ。

そして一度首を傾げたかと思えば、口を開け―…


「こら!玄兎!」


ようとした瞬間、慌てて駆け寄ってきた拓馬によって、それは阻止されてしまう。


「ダメですよ、フルヤさん。犬にアメなんて食べさせたら。」

「あら、そうなの?ごめんなさいねぇ。じゃあ今度ワンちゃんでも食べられる物を用意しておくから、このアメちゃんは助手のお兄ちゃんにあげましょうねぇ。」


そう言って拓馬に飴玉を渡すと、買い物に出掛けて行ってしまったフルヤ。

その後ろ姿が完全に見えなくなると、拓馬はすぐさまそれを近くのゴミ箱へと投げ入れた。


玄兎の視線がその軌跡を追い掛ける。


「…ったく。玄兎も知らない人から、というかフルヤさんから食べ物なんてもらったらダメだぞ。絶対に。最悪死ぬんだからな?」

「…………」

「腹が減ってんのか?ここの掃除が終わったら、後でオヤツをやるからな。もうちょい我慢してろよ。」


なんて言い聞かせながら、ぐりぐりとその頭を撫でていた拓馬に「おい、」と背後から声が掛かる。

振り向けば、相変わらず清掃業者には見えない黒スーツ姿のマエカワが、どこか少し複雑そうな顔をして近寄ってくるところだった。


「あ、清掃終わりました?」

「…おう。」


周囲を見渡せば、ゾンビ達も撤収作業に入っているようだ。

この後の拓馬の仕事はマエカワと一緒に点呼を取り、清掃終了の確認書類にサインをするだけ。


思ったより速く済んだ作業に、さて玄兎のオヤツは何を用意していただろうかと思い巡らせていると、ふとマエカワの視線が玄兎に向けられていることに気が付いた。


「あぁ、玄兎って前はマエカワさんのとこに居たんでしたっけ?」

「あー…いや、俺のところに来て、割とすぐ他に回されたやつだ。若くて健康そうな男をって上からの指示で、てっきり臓器関係だと思ってたんだが…」


なんか…大事にされてるみたいで良かったな、お前。

とマエカワは独り言のように呟きながら、じっと自分を見上げる玄兎からそっと目を逸らしたのだった。




差し入れはジャーキー(犬用)で

(良かったなぁ、玄兎。今度マエカワさんにちゃんとお礼しようなぁ。)
(………)
(…お前、実は玄兎で憂さ晴らししてるんじゃないだろうな?)
(え?すみません、白旗さん。今何て言ったのかちょっと分からなかったっす。)
((…………))


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嘘つき、ロンリー。