相馬と構成員


誰も居ない店内でソファーの一つに寝転がり、スマホで動画の視聴に勤しんでいるとドアが開く音がした。


「お疲れさん。」


体を起こすこともそちらを見ることも一切なく、そう声だけ投げ掛けてやれば無言で閉まるドア。

そして、コッコッコッ…と近付いてくる革靴の音。


「阿久津は?」

「遅れるって、さっき連絡があった。」


不意に音が止み、すぐ傍らに佇む気配。

と思えば、相手はソファーの背もたれに両手を掛け、その体重を支えるようにしながら覆い被さるようにこちらを覗き込んできた。

やや陰ってしまったものの、スマホ越しに見慣れた端整な顔立ちと目が合う。


「少し気を弛めすぎじゃないか?」

「あ?」


阿久津の遅刻を責めているのか、それとも俺の態度か、その両方か。


確かにどちらも上役の前ではあり得ないことで、以前の『職場』なら問答無用で殴られて歯の一本は覚悟しなければならなかっただろう。

だが環境は変わり、お互い気心知れた仲間…なんてものでは断じてないが、今更昔馴染みに対して畏まってみせるのも白々しい。


それに阿久津の場合、俺や相馬の分も現場をまとめて忙しいのだから、少しくらい大目に見てやってもいいはず。


なんて考えていると、ふっと相馬が目を細めて笑った。


「今ここにいるのが俺じゃなかったらどうするつもりだ?」

「あぁ、そういう話か。」


東城会解散後、今や神室町の覇権をほぼ握りつつある半グレ集団『RK』。

今日はその幹部定例会で、相馬の言う通り、恨み辛みを抱く人間にとっては絶好の襲撃機会に違いない。

経験上、俺だって狙う。


「まぁ、その時は見張りから報告が来るだろ。」

「報告する隙もなくヤられたら?」

「別に…出入口にはカメラ仕込んでるからな、何かあれば嫌でも分かる。」


勿論、見張りの連中にはそのことを教えていないため、今もスマホの中、鬼の居ぬ間に何とやらで言いたい放題話しているが。


「ちなみにあいつら、今お前のことで盛り上がってんぞ。『相馬さんってマジかっけーよなぁ』『俺、相馬さんになら抱かれてもいい』ってよ、聞くか?」


適当にモノマネしながらトントンと右耳に差し込んだイヤホンを示してやれば、「いや、いい」とそれを鼻で嗤った相馬は俺の上から身を退き、そのままカウンターの方へと行ってしまった。


流石、嘘を見抜く男。

その背中をしばらく眺め、再び視線を画面に戻した。


「あー、あと実はお前はオマワリなんじゃないかって噂してる。」

「………へぇ。」


おまけで付け加えた大雑把な嘘は見抜くのさえ面倒だったらしい。

相馬はこちらを振り向くことなく、ただハンカチで口元を押さえてズズッと鼻を啜っただけだった。





ホントノウソ


ちなみに、実際には「相馬さんと玄兎さんってデキてんの?」と何とも馬鹿らしい話をしていたので、今度何かキツめの仕事に回してやろうと思っていた。

が、その前に姿を消してしまったあいつらは、意外と俺より危機察知能力が高かったらしい。


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三十万打感謝企画より。
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嘘つき、ロンリー。