犬彦と風神(笑)
※『負け犬』。
※夢主の苗字は「風上」で固定。
「マジでか…マジであのエレキングが?」
「相手は一体、どこのどいつよ?」
『エレキング』こと江零木健二が、負けた。
そのニュースは正に稲妻の如く、瞬く間に学校中を駆け巡り、「その男」の耳にも届いた。
「騒ぐな、鬱陶しい。」
さほど大きくもない声がざわめきを鋭く切り裂き、一瞬にして教室内が静まり返る。
そして視線は自然と、窓際最後方のその席へ集まった。
それらを一身に受けながら、だが一向に構うことなく退屈そうに頬杖をついた男が言葉を続ける。
「野良山だろ、野良山犬彦。タメん中であの江零木に勝てるやつなんて、あいつぐらいだ。」
「……犬彦…そうか、あいつも鈴蘭に来てたんか…」
「となると、一年頂上決戦は玄兎と犬彦の対決ってことになりそうだな。」
「ハッ!あんな野郎に玄兎が負けっかよ!なぁ、玄兎!!」
「……さぁ、どうだかな。」
素っ気なく返事を返されたにも関わらず、尚も期待を込めてその名を呼ぶ声がそこかしこから上がり続ける。
『風神』風上玄兎。
犬彦、エレキングに並ぶトップランカーであり、最も鈴蘭の頂点に近いと評される男。
喧嘩の強さは勿論のこと、何よりその圧倒的なカリスマ性が頭一つ分飛び抜けている要因だ。
クールな見た目とは裏腹に、まるで吹き荒ぶ嵐の如く周囲の心を根こそぎかっ浚っていき、一年生ながらその派閥の大きさはまず間違いなく鈴蘭一となっていた。
と、不意に玄兎が席を立つ。
何も言わないまま教室を出て行こうとする姿を見て、その場にいたほぼ全員が腰を上げ、玄兎の後に続いた。
どこへ行くのか、何をするつもりなのか。
誰もそう問うことはせず、またその必要もなかった。
自分達はただ一人、『風神』に付き従うのみ―…
(……いや、誰か聞けよ。こちとらただの便所だっつーの!)
ぞろぞろぞろぞろ引き連れて、連れションするつもりはねぇ!
と玄兎はすぐさま追い払おうとしたものの、残念ながら時すでに遅し。
その大所帯は「風神」「風神だ」「いよいよ奴が動くのか…」とすっかり他クラスの注目の的だった。そんな中、自身の尿意を高らかに宣言する気など玄兎にはさらさらない。
(つーか、風神風神うるせぇんだよ。そもそも俺が喧嘩してんのは、可愛い女の子達を不埒な野郎共から守るためであって…クソッ!何で勝てば勝つほど集まってくるのは野郎ばかりなんだ…!?)
それも若干Mっ気のあるやつばかりが周囲に侍るようになり、肝心の「可愛い女の子達」は遠ざかっていくばかり。
ただでさえ鈴蘭というハンデを背負っているというのに。
(負けてぇ…さっさと負けて、この状況から解放されてぇ……)
自分でもどこに向かっているのか、何をするつもりなのか分からないまま、玄兎はとにかく足を進める。
(野良山か…あの江零木に勝つぐらいだ、噂通り相当強いんだろう。ちょうどいい。さっさと負けて、このむさ苦しい集団を引き取ってもらおう。)
だが、その犬彦の方もまた「負けたい」と考えていることなど、玄兎は知る由もないのだった。
負けるしかない戦い
(…なるほど、お前がエレキングの言っていた『風神』ってやつか。その佇まい、漂うオーラ、正に覇者の風格!確かにこいつは一筋縄にはいかなさそうだぜ…!こいつとならきっと伝説の一戦ってやつを刻めるに違いねぇ…!)
(……お前はアレか?思ったことをそのまま口にしないと死ぬ病気か?なんか恥ずかしいから止めろ。)
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嘘つき、ロンリー。