童門と記憶喪失


事故で記憶喪失になって、しばらく経つ。

今のところ記憶が戻る気配はないが、同級生である天知の協力により特に問題なく学校生活を送っている。


とはいえ、失ったこの二年の間に何があったのか、全く気にならないわけでもなかった。


どう考えても人の上に立つ器ではない俺が派閥のトップに収まった経緯は?

あれほど仲間達に慕われていた天知の派閥に一年一人しかいない理由は?

順当に残った光嶺三年の顔触れの中に何故北条がいないのか?


と聞きたいことは色々あったし、天知のことだから聞けば答えてくれるとは思うものの、どれもそう気軽に触れていい話題ではないとひとまず思い止まることにした。

流石に空気を読んだ。


ただ一つだけ、これだけは聞いてもいいだろうか。


「それでな、青大は柚希と……そしたら明日香が…」


さっきから俺の後ろで、俺の知らない野郎の恋愛事情を延々と聞かせてくるのは、光嶺の『破壊王』。


確か童門って中学の頃、天知とバチバチの関係じゃなかったか?

いつから他人の色事に首突っ込むような恋愛脳に??


この二年で一体何があったのか、気になって仕方ないのだが。


『よー、玄兎。オメーはどう思うよ?』

『……何が。』


事の発端は少し前、校内の廊下を一人歩いていると反対側から派閥の人間らしい後輩を連れて歩いてきた童門。

そして擦れ違い様、突然何の前触れもなく話を振られたため、反射的に足を止めてしまった。


『青大の野郎だよ。まさかあそこであんなことになるなんて、お前も思わなかったよな?』

『誰だよ、ハルト。』

『何…?お前…「君町」を知らねーのか…?』

『きみ町?』


知らない名前、聞き馴染みのない町名に眉を顰めていると、童門は信じられないものを見る目でこちらを見てきた。

後輩の方も何やら複雑そうな顔をしていたため、今からでも知ったかぶって相槌を打つべきか少し迷ったが、こういう場合の対処についても天知から助言を受けていたのでそれに従うことにした。


『反応に困った時は、いっそ無視するってのも一つの手だねぇ。』


記憶喪失前の俺の性悪さについてはひとまず置いておくとして。

助言通り無視して歩き出した結果、童門が俺の後に続きながら「青大」の恋愛事情を延々と語り出すという現在に至るわけだが。


というかマジで誰だよ、ハルト。

童門の話を聞く限り、三角関係どころかハーレム過ぎて段々腹立ってきたわ。


「あの、童門さん。流石にもうその辺で…」


そんな俺の様子から何か察したのか、恐る恐る童門の後輩が口を挟む。

すると「ん?おー、そうだな」とあっさり話を切り上げた童門に、出来ればもう少し早めに止めて欲しかった気もしたが文句は言うまい。


「そろそろ『君町』の再放送の時間だしな。」


って今までの全部ドラマの話かよ!





破壊王がゆく


最近、天知とツルんでることが多いと聞き、幾分丸くなったのかと思えばそうでもなかったらしい。

最後までろくな反応を見せることなく、一瞥だけくれてさっさと立ち去ってしまった玄兎の後ろ姿を見送ると、童門は「何だ、つまんねーな」と鼻を鳴らした。


それまでその傍らで息を詰めていた番場がそっと息を吐き出す。


「あの『氷の男』相手にドラマの話するなんて、童門さんぐらいスよ…」

「あ?じゃあ天知とは何の話してんだ?」

「知りませんよ。とりあえずドラマの話じゃないことだけは確かっスね。」


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嘘つき、ロンリー。