柳と後輩
「谷口さん、そろそろヤバいんじゃないっスか?」
「…………」
具体的に『何』が『どう』ヤバいのか新介は言わなかったが、谷口にはそれがどういう意味なのか嫌というほど解っていた。
だからどうすればいいのかと悩み、気休め程度でもやれることは全てやったつもりだった。
が、気が付いた時にはもう手遅れだった。
「谷口くん、今日の予定じゃけど…谷口くん?」
年一の『蛇道神』総会。
二日間に渡るそれは恒例通りの暴走、飲み会と何事もなく順調に進んでいた、はずだった。
それが一夜明け、欠伸混じりに話し掛けてきた後輩の姿を一目見て戦慄が走る。
「…玄兎、それ、どーしたんなら…?」
「え?あぁ、これ?昨日、柳くんにヤラレたんじゃけど。」
「…………」
事も無げにそう答えた玄兎の首筋には、くっきりと残された歯形。
谷口は思わず頭を抱えてしまう。
恐らく新介も、どこからかこちらの様子を窺いながら似たような反応をしていることだろう。
「夜中便所に起きたら、鉢合わせしてしもォて。何じゃあの人、溜まってたんかねぇ?そのまんま個室に連れ込まれて無理矢理」
「もうえぇ、もうえぇ…詳しく聞きとうないわい…」
「はァ…んじゃあ改めて、今日の予定じゃけど。」
「……………」
玄兎の貞操観念の薄さも若干気になりはしたものの、今問題とすべきは柳の方だ。
(ついに、手ぇ出したんか…)
前々から、玄兎に向けられる柳の感情に何となく気付いてはいた。
だがその頃はまだ柳本人も「なぁんか気になるのォ…」ぐらいの細やかなもので、別に大したことではなかった。
それがつい最近、谷口どころか新介までもが危機感を覚えるような事態に。
『何じゃあ…最近凌のやつ、玄兎にベタベタしすぎじゃあないかァ?』
『…ほォかァ?』
鋭く細められたその視線の先には一つ下の後輩と、さらにその下の後輩の姿。
単車の話で盛り上がっているのか、傍から見れば微笑ましい光景だというのに、柳の目には一体どう映っていたのか。
「柳は昔からのツレじゃし、玄兎も凌も大事な後輩じゃ。じゃけぇ、なるべく事を荒立てとォはなかったんじゃが…」
「柳さんから玄兎さんを見張るよう言われた時は驚きました。」
「…お前からその話聞かされた時ゃあ、ワシも驚いたわい。」
玄兎の姿がなくなり、代わりに近寄ってきた新介に溜め息をこぼす谷口。
柳も一つのチームを束ねる頭、そう無理はしないだろうと高を括っていた。
そして谷口は出来るだけ玄兎と凌を引き離そうとしたし、玄兎自身にもなるべく誰かと二人っきりになるなと注意した。
気休め程度でもやれることは全てやったつもりだったが、その結果がこれだ。
「まぁ玄兎さんがああいう人じゃけぇ、大事にはなってませんが…他に知られたら大問題ですよ、これ。どうするんスか?」
「…今、考えとるところじゃ。とりあえず新介、お前は玄兎にあの首隠せぇ言うとけや。」
「はい。」
まるで蛇が藪を飛び出して、
(さて、これからどうするか?)
(…もうなるようになりゃあえぇ…)
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嘘つき、ロンリー。