緋咲と元ドラマー
「何を言われた?」
「え?」
コーヒーのお代わりを注ごうとしたところで、突然腕を掴まれた。
反射的に顔を上げると、やけに怖い表情の緋咲クンと目が合う。
「さっき、あそこのテーブルの奴らに絡まれてただろうが。」
「あー…あれ、ね。見てたんだ?」
傍から見れば、今のこの状況も十分絡まれているように思われるはず。
なんて苦笑していれば、案の定心配そうにこちらを窺うバイト仲間が視界に入った。
それに「大丈夫」と手を振って、未だ俺の腕を掴む緋咲クンの手をやんわりと外す。
「一緒にバンド、やらないかってさ。」
「何だと…?」
「まったく、どこで嗅ぎ付けてくるんだろうねぇ…」
俺自身の腕前はそう大したものではないが、以前属していたグループが有名だったおかげで今でも時々こうしてお声が掛かる。
今回は特に熱心な勧誘だったので、余計な心配を掛けてしまったようだ。
そして本来の目的通り、空のカップにコーヒーを注いでいると、少し躊躇うように「やるのか?」と緋咲クン。
その様子があまりにらしくなくて思わず笑ってしまった。
「やらないよ。今、色々とバイト掛け持ちしてるし。」
「…そうかよ…」
「それにさ、」
「あ?」
「生憎、龍神以外の背中を見るつもりはないんだ。」
そう付け加えた瞬間、緋咲クンは何故か舌打ちして、顔を背けてしまった。
無自覚な惚気話
(…入り込む隙がねぇ…)
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嘘つき、ロンリー。