千冬と『曼呪沙華』
ジャンケンに負け、飲み物を買いに行った玄兎が一向に戻ってこない。
と思えば予想通り、自販機前で絡まれているのを見付けて舌打ちした。
足早にその背中へと近付いて行く。
「玄兎ー?」
「あん?」
「何やってんだよ?遅ぇゾ?」
「あー、わりぃ…ちっと道を聞かれててよ…」
「フーン…?」
言いながらその腕に腕を絡め、その肩に身を委ねるように頭を凭れさせる。
最近この距離感を諦めたらしく、特に抵抗らしい抵抗を見せないまま会話を続ける玄兎。
むしろ反応したのは、玄兎が相手をしていた女共の方だ。
見れば案の定、オレより醜いその面を不様に引き攣らせ、オレと玄兎のことを見ている女が二人。
どうやらオレの美しさにビビったらしい。
一見優男である玄兎は、こうして勘違いした女共から声を掛けられることが多い。
当の玄兎にその自覚はないようだが、オレにとっては「ねーちゃん」と呼ばれる次くらいにムカつく話だった。
「なぁ、玄兎ー。早く行こうゼー?」
剃り込みでも入れてちったぁ迫力を出しゃあいい、と八尋は笑っていたが絶対にそんなものは許さない。
オレに寄ってくる男共を蹴散らすのが玄兎なら、玄兎に群がる女共を追い払うのはオレの役目だ。
「ちょっと待ってろって。…悪いな、あんたら。ツレがいるから案内は出来ねぇけど、さっきの説明で行けそうか?」
「え、あ、は、はい…」
「玄兎ー?」
「あー、もう分かったっつーの。うるせぇなぁ…おら、行くぞ千冬。」
オレを腕に張り付けたまま、玄兎が踵を返す。
そしてオレは間抜けにも置き去りにされる女共を振り返り、舌を出してそれを嗤ってやった。
カレのモノ
(相変わらず懲りねぇなァ?お前ら…剃り込みが駄目ってんなら刺青でもどうだ?)
(あ?何の話だ、それ?)
(オレらんことに口出しすんじゃねぇよ、八尋ォ…)
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嘘つき、ロンリー。