半間と稀咲の駒


※原作軸未来。
※関東事変後。
※23巻番外編ネタ。








「可哀想なやつだって言われたよ。」

「あ?」

「置いて行かれた、可哀想なやつ。」


そう同情して見せながら、あるいはあからさまに嘲笑して見せながら、近寄ってくる輩が何人かいた。

勿論誰のことも相手にはしなかったが。


「でも、まぁ、仕方ないよな。確かにあの時、お前は稀咲くん一人を抱えて走り去って行ったんだから。端から見たらそう見えるのも仕方ないよな?」


あの時、稀咲くんは無事逃げ延びなければならなかったし、半間はそんな稀咲くんを無事逃がさなければならなかったし、当然俺はそんな二人を無事逃がさなければならなかった。

そして、それぞれの役目を果たした結果、ああなってしまっただけのこと。


結局単車を一台取り逃がしてしまったものの他は何とか足止めし、警察が到着する前には俺自身も上手くその場から離れることができた。

後は万が一に備えて予め稀咲くんが指定していた幾つかの地点に向かい、二人と合流するだけだった。


だから俺は、自分が置いて行かれたなんて微塵も思わなかった。


「なのに、どれだけ待ち合わせ場所で待ってても来ないんだもんなぁ…探すのに本当、苦労した。」

「そりゃあ悪かったなぁ?稀咲がいねーから、待ち合わせとか全然覚えてなかったわ。」

「だろうと思ったよ。」


誠意の欠片も感じられない謝罪に苦笑し、「ついでに俺のことも忘れてたんだろ」と詰ってやりたかったが、肯定を返されるのが怖くてそれを飲み込む。


代わりに、俺は先程の半間の言葉を繰り返した。






「…なぁ、半間。稀咲くんは…もう、いないんだ。」


愛美愛主。芭流覇羅。東京卍會。天竺。

数々のチームを稀咲らと共に渡り歩いてきた、稀咲の忠実な駒である玄兎は、だがその中学生どころか小学生にしか見えない見た目のおかげで「共犯」とは認識されなかったらしい。


だから今こうして墓地で半間のことを待ち伏せし、それを押し倒すことが出来たのだろう。


『ブハッ!オマエ、相変わらずちっちぇなぁ?むしろ逆に縮んじまったんじゃね?』

『…半間は、髪伸びたな。』


いつまでも冷たい砂利道の上で横たわる趣味など勿論ない。

だが稀咲との『約束』を果たすまでの間、息を潜めるように待っていた玄兎に免じて、半間はあえてその好きなようにさせていた。


一発ぐらいは殴られてやってもいいかと、そういう気分になっていた。

だから―…



「だから、俺にはもうお前しかいないんだよ。」



「…ダリィ…」


拳の代わりに降りかかってきた言葉にそうぼやくと、腹筋を使って勢いよく上半身を起こす。

そして立ち上がりながら抱え上げたその小さな身体は、思ったより少し重く感じた。





本当に可哀想なやつだ。

(…まぁ、逃亡中の暇潰しぐらいにはなんだろ。)


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嘘つき、ロンリー。