場地と弟
※場地生存軸if未来。
「千冬ぅ…わりぃがコレ、ほどくの手伝ってくんねーか?」
休憩時間中、そう言って近寄ってきた場地が千冬に向かって指し示して見せたのは自身の頭、もっと言えばその髪だった。
いつもなら仕事の邪魔にならぬようにと大雑把に後ろで括られているそれが、今日は珍しく左サイドを編み込んでいて、千冬も確かに少し気になってはいたが。
「え…いいんすか?」
手間も暇も掛かっているのだろう、折角キマッているのに勿体ない、と躊躇う千冬。
だが他ならぬ場地から「痛くて仕方ねぇんだよ」と言われてしまっては、手伝わないわけにはいかなかった。
それにその口ぶりから言って、恐らくまた場地の『専属美容師』の仕業なのだろう。
「玄兎くんも腕上げましたね。」
「あ?あー…本当、無駄にな。」
昔からよく、兄の長い髪を弄っていた玄兎。
当初は不格好な三つ編みが精々だったが、今や一見しただけでは一体どういう構造なのか分からない、見事な仕上がりだ。
今からでも本格的にプロを目指すように勧めてもいいかもしれない。
しかし、今回は少々難航しそうだなと思いながらそれに手を伸ばそうとした千冬の脳裏に、ふといつかの玄兎の言葉が過った。
『だってけいちゃん、猫に構ってばかりで俺の相手してくんねぇし。』
猫のブラッシングをする場地、のヘアメイクをする玄兎。
そんな三者の姿を想像し、ついつい笑みを浮かべてしまう。
玄兎も決して猫が嫌いなわけではない、ということを千冬は知っている。
「あ、そうだ。この前玄兎くんに猫の写真を送ったんすけど、今度場地さんにも送りますね。」
「写真?」
「コレっす。」
最近撮影した、黒猫の美人。
自分でも「綺麗に撮れた」と思える、満足の一枚である。
千冬は携帯を操作して、それを場地に手渡した。
そして、さてどこから手を付けたものか…と己に任された仕事に改めて向き合ったのだが。
「場地さん?どうかしました?」
「…コレ、アイツが待受にしてんのを見たわ。」
「え、」
玄兎がそれほど気に入ってくれたのかと思うと千冬は素直に嬉しかったが、それよりも件の写真を難しい顔をして睨み付ける場地に困惑する。
(あれ?そう言えば玄兎くんの待受って、前は確か―…)
「何?もしかしてオマエら、喧嘩でもしてんの?」
さっき玄兎に会ったけど、オマエと二人で写ってた待受、猫に替わってたぞ?
そう後からやって来た一虎の言葉が、千冬の疑問の答えとなるのだった。
ジェラジェラ
(そして兄弟の待受がお揃いの『猫とのスリーショット』に替わるのも、また時間の問題だった)
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嘘つき、ロンリー。