三ツ谷と雑学好き
※原作軸過去(東卍)。
玄兎の声が聞こえなくなってしばらく。
「はい!玄兎くん、あーん!」
「こっちも!はい、あーん!」
それでもなお止まることなく、まるで競い合うようにその口元へ箸を運び続ける妹達の様子に、流石にそろそろ助けてやるかと三ツ谷は苦笑混じりに腰を上げた。
「ルナ、マナ。玄兎の世話はもういいから風呂入って来い。」
一瞬上がった不満の声に、今度はもう少し厳しめにそれぞれの名前を呼んでやれば、名残惜しげながらもそれに従う二人。
そして、ぱたぱたと小さな足音が聞こえなくなった後に残されたのは、未だ両頬を膨らませたままの玄兎と半分ほど中身の残ったコンビニ弁当だけ。
「ワリぃな、二人がオモチャにしちまって。」
その瞬間、何やらもごもごと言い返されたが、残念ながらよく分からなかった。
ついでに言えばもう一つ、三ツ谷には分からないことがあった。
ここ数日、玄兎が肩から左腕を吊っている理由だ。
『バナナの皮で足を滑らせて転んだってよ。』
『今時バナナの皮かよ!?』
玄兎は怪我でしばらく集会には来られなくなった、という話と共に仲間内に広められた「原因」にそこかしこで笑い声が上がったのは記憶に新しい。
玄兎らしいと言えば玄兎らしいそれを疑う者がほとんどいない中、静かにアイコンタクトを交わし合ったのは東京卍會副総長と弍番隊隊長の二人だけ。
だから今日、コンビニ帰りらしい玄兎とたまたま鉢合わせた三ツ谷は、とある重要ミッションを実行するためにこうして玄兎を自宅に連れ込んだわけだが。
「…なぁ、その怪我、どうしたんだよ?」
玄兎が口の中の物を飲み込んだところを見計らい、問い掛けたその声にどこか緊張感が滲む。
それに気付いているのかいないのか、だが何となく意図は察したらしく、玄兎は「まぁ、流石にバナナの皮じゃないことは確かだな」と笑った。
「本当は何があったんだ?」
「実は別に何もなかった、というか、何もないところでつまずいた。」
危うく納得しかけたのはほんの一瞬。
ドラケンの鋭い眼差しが三ツ谷の脳裏に過る。
「……バナナの皮とあんま変わんねーよ、それ。」
「そうか?じゃあ今後はもうバナナの皮が原因ってことでいいか。」
「よくねぇよ。」
「じゃあ、今風にマンゴーの皮とか?」
「…………」
何が「今風」なのか分からないが、あくまでとぼけ続けるつもりらしい玄兎は予想通り手強かった。
だが、それは三ツ谷も覚悟の上で、玄兎が正直に全てを話すまで帰すつもりはない。
「…二人が戻ってくる前に食い終わらねぇと、またオモチャにされるぞ。」
追及を諦めた、と見せ掛けてとりあえず話題を変える。
あっさりそれに頷いた玄兎は促されるまま、ルナかマナのどちらかが置いていった箸を右手で取ろうとして、だがそのどちらとも、弁当までも三ツ谷に奪われてしまった。
「三ツ谷?」
左利きである玄兎は今、左腕を使えない。
が、多くの左利きがそうであるように玄兎もまたほぼ両利きのようなもので、右手だけでも日常生活を送るだけなら特に問題がないことを三ツ谷は知っていた。
知っていて、あえてこう続けた。
「ほら、玄兎。あーん。」
その一瞬、玄兎は初めてその顔を引き攣らせた。
静かなる戦いの始まり
(そして三ツ谷の介助が着替え、風呂と続き、トイレにまで至った瞬間)
(玄兎はついに根負けしたのだった)
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嘘つき、ロンリー。