千冬と元同級生
※平和軸未来。
「あ、」
陳列棚にあった焼きそばパンを手に取った瞬間、背後で小さく声が上がるのが聞こえた。
つられるように振り返ると、同い年ぐらいの男がそこにいて、何やら驚いたような表情で俺のことを凝視している。
(…?なんか、見覚えがあるような…?)
しかし、先程の「あ、」は一体何だったのか。
いくら待ってみても相手がその続きを話し始める様子はなく、むしろまるで時間が止まったかのように固まったまま動かない。
特に急いでいるわけでもなかったが、大した用事でないのならさっさとレジを済ませてコンビニを出たいところだ。
と何となく手に持っていた昼飯候補を見下ろした瞬間、どうやらそれがラスト一個だったらしいことに気が付いた。
もしかして、目当てはこれか?
「えっと、良かったらどうぞ…?」
「え?」
「俺は他のでもいいんで…」
恐る恐るそれを差し出せば、ようやく時間が動き出す。
きょとんと瞬きを繰り返しながら俺と焼きそばパンを見比べたかと思うと、ハッと我に帰った様子でブンブンと首を横に振り始めた。
「いや別にそれが欲しいってんじゃなくてっ!……その…玄兎、だよな…?」
「え?」
今度は俺がきょとんとしてしまった。
確かに俺は玄兎だ。
「オレ、中学ん時に同じクラスだった松野千冬。…覚えてねぇ?」
マツノチフユ、まつのちふゆ、松野、千冬?
「あ。」
ふと髪を染めた不良の姿が目の前の相手に重なると同時に、すとんと何かが胸に落ちてきた。
同級生の、松野千冬。
すると、俺の様子から俺が思い出したことを察したのか、松野くんは嬉しそうに笑った。
というか表情豊かだな、この人。
「やっぱ、そうだよな!久し振りだな、玄兎!」
「あーっと、お久し振り、です…?」
「いや、何でオマエまだ敬語なんだよ?」
「何でって、だってほら松野くん年上だし、同級生でも一応礼儀かなぁと思って…」
「……は?」
「え?」
ほんの一瞬見えた元不良の片鱗に少し戸惑ったものの、それより自分はどうやら長い間ずっと勘違いしていたらしいと知ったことの方が衝撃だった。
俺の記憶にある『同級生の松野千冬』は休憩時間中あまり教室内におらず、他のクラスの留年している先輩と仲が良かったため、てっきり当の本人もそうだとばかり思い込んでいた。
そう正直に話すと、松野くんは「あー…場地さん…」とぼそり呟いた。
残念ながらよく聞こえなかったが。
「確かにその先輩とは親しかったけど、オレは違ぇよ。」
「あ、そうだったんだ?ごめん、俺ずっと勘違いしてた。」
「いや、それはまぁ別にいいけ、ど……」
「?松野くん?」
突然、松野くんの時間が再び止まった。
その顔色は赤いようにも青いようにも見える。
本当に表情豊かだな、なんて思いながら俺は「とりあえず先にレジを済ませてきてもいいかな?」と断りを入れた。
松野くんが思い出話をしたいのなら立ち話もなんだろう。
特に急ぐ用事もなかった俺はもうしばらくそれに付き合うことにした。
ねぇ、思い出した?
(やべっ…テンション上がりすぎてつい話し掛けちまったけど、中学ん時コイツとまともに話したことねぇ…!つか思いっ切り普通に名前で呼んじまったし…!どうすんだ、オレ!?)
(それは、淡い初恋の思い出でした。)
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こっそりT卍R祭より。
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嘘つき、ロンリー。