コーディと悪徳警官
いつも空席のその席に、珍しく人の姿がある。
それに気付いたコーディは一瞬足を止め、そして思わず納得してしまった。
外から戻ってきた時から、署内の空気がどことなくざわついているように感じていたのだが、どうやら原因は「これ」のようだ。
仰け反るように背凭れに凭れかかり、天井を見上げるその人物の顔にはタオルが一枚。
もしかしたら眠っているのかもしれない。
「お疲れ様です…」
相手に聞こえるかどうか、ぼそぼそと形ばかりの挨拶と共に、こそこそとその背後を通り過ぎて自分のデスクに向かうコーディ。
が、突然腕を掴まれ、驚いた拍子に情けなくも小さな悲鳴を上げてしまう。
「ヒッ…!?」
「……あぁ、お前か。」
慌てて振り向くと、タオルをずらして顔半分を覗かせた玄兎が煩わしげにコーディを見上げていた。
「玄兎、さん…?」
「ちょうど良い。そこ、座れ。」
「え?いや、あの、」
「座れ。」
「ちょっ、!?」
いつの間にか隣の席の椅子が引かれ、強引にそこに座らされたかと思えば、「書け」と目の前に何やら書きかけの紙とボールペンが投げて寄越される。
走り書きのそれは見にくいものの、何とか読み取ることは出来たのだが。
「書けって、これ…始末書じゃないですか。僕が書いたら怒られますよ。」
言うだけ言って、すっかり元の体勢に戻ってしまった玄兎からの返事はない。
これ以上粘ったところで恐らく無意味だろう。
そう諦めも早く、作業に取りかかろうとしたコーディだったが、もう一つ問題があった。
「あの、玄兎さん。」
「…あ?」
「代わりに書くにしても、その、何があったのか事情を聞かないと、流石に…」
「適当でいい。どうせ誰も読まねぇよ。」
「そんな訳には、」
「じゃあ、あれだ。『街で悪い人を捕まえようとしました。抵抗されたのでぶっ飛ばしました。物を壊しました。すみません。』」
「子どもの作文じゃないんですから、」
「それ書いたら出しとけ。」
「玄兎さん、」
一方的に話を切り上げ、とうとう玄兎が席を立つ。
つられて立ち上がりかけたコーディは、そこで今日初めて玄兎の顔を正面から見て、戸惑った。
「え、……」
タオルに隠されていた、顔半分。
右目の下に青い痣があり、鼻に詰め込んだティッシュには血が滲んでいた。
悪い人を捕まえました。
(そして今更ながら、)(玄兎の手にあるそれが濡れていることにコーディは気が付いたのだった)
---------------
こっそり悪男祭より。
戻る
嘘つき、ロンリー。