降谷と臆病な男


※純黒/悪夢より。
※諸々捏造があります。ご注意下さい。










よく勘違いされるのだが、俺は「臆病な男」であって決して「慎重な男」ではない。


慎重というのは、石橋を渡る前に叩くこと。

臆病というのは、石橋を渡る前に壊れた時にどうするかと考えること。

つまり、初めから「失敗」を計画に組み込んで行動しているわけで、「成功」など毛頭ない。


なんて少々悲観的な嫌いがあるせいか、大した手柄もなければ出世の見込みもないのだが、現在のバックアップ的立ち位置に俺は充分満足していた。

別に負け惜しみではない、上に行けば行くほど任務の難易度は確実に増すのだ、身の丈は弁えている。


ということで、警察庁に侵入者有りという一報を耳にした今回も下手に動くことはせず、侵入者が建物から無事脱出した場合を想定して車の中で待機していた。

そして予想通りの姿を目視し、その後を追おうとして―…






突然運転席のドアが開いた、と認識する間もなく蹴り飛ばされ、助手席側の窓に思いっ切り頭を打ち付けた。


「うぐっっ…!?」

 
痛みと共にぐわんぐわんと揺れる視界、いや実際に視界が動いている。

というか、車自体が動いている。


どうやらカージャックに遭ったらしい。

それも天下の警察庁の敷地内で、なんて一体誰が予測出来たと言うのか?少なくとも俺には出来なかった。

色んな意味で頭が痛い。


(……よく窓ガラスが割れなかったな…いや、そうか。防弾仕様だったな…)


ついでに右へ左へと乱暴に揺れる車体に踏ん張ろうとすればするほど先程蹴られた脇腹に痛みが走り、もう少ししたら吐きそうな予感がする。


その前にせめて襲撃犯の顔を確認しなければ…と諸々を堪えて何とか振り向いたところで、その見覚えのある端整な横顔に思わず目を見開いてしまった。


「黙って座ってろ!」


いや、まだ何も言っていない。

と言い返したかったが、それっきり俺を意識の外に放り出して運転に集中し始めたらしい相手の邪魔をするわけにもいかず、言われた通り大人しく助手席シートの上で身を縮めることにした。

事故を起こされても勿論困るが、今の状況について追及されてもマズい。


(……一瞬でもスピードが弛んだら、捨て身で飛び降りるか…)


緊張感漂う沈黙の中、そのタイミングだけは逃さないようにとバンバン後ろへと流れていく外の景色に注意していると、とうとう目的の車と並び合ってしまった。

左右色違いの瞳と、目が合う。

その人物はつい数秒前の俺のような、驚いた表情をしていた。


(悪い、キュラソー…見ての通りだ、援護は期待しないでくれ。)


俺も「助けてくれ」とは言わないから、どうかこの状況を上に報告するのだけは止めてくれ。特にどこかの銀髪男だけは絶対に止めてくれ。

そう切実に念を送っていると「赤井…!」と血を吐くような声が運転席の方から聞こえ、つられるように振り向けば逆隣にもう一台赤い車が併走していた。

そちらにも見覚えのある顔が乗っている。


どうやら映画さながらのカーチェイスはこれからますます苛烈さを増すらしい。


(…もし万が一「次」があるとしたら、その時は是非とも押し込むんじゃなくて引きずり下ろして欲しいもんだな…)


とりあえず今は「前を向いてくれ」と頼むべきだろうか。

だが結局、口を閉ざしたままの俺は臆病な男であった。





空気になりたい。

(その後、キュラソーの車がトラックを巻き込んで宙を飛んだおかげでこちらもほんの一瞬止まった)
(が、いつの間にか腰のベルトに手錠を掛けられており、それを外すのに手間取っている内に車は再スタート)


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こっそり名探偵祭より。
企画へのご参加ありがとうございました!




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嘘つき、ロンリー。