琥珀と同行者02
琥珀は悩んでいた。
それはつい先日、訳も解らぬまま一線を越えてしまった「同行者」のことだ。
事の発端は、まぁ琥珀の方に原因があったのだが、この若き妖怪退治屋に恩義を感じる「同行者」が無駄にそれを忖度してしまい…
『そんな気にすることはありませんよ。男たるもの据え膳食わぬは、ですからね!』
姉が聞いたら怒るどころでは済まなさそうな台詞を、かつ爽やかな笑顔で言い放った義兄に、琥珀は思わず顔を引き攣らせてしまった。
どうやら自分はまた相談相手を間違えてしまったようだ、と。
だが、そんな琥珀の心情を察したのかしてないのか、尚も言葉は続いた。
『と、冗談はさておきまして。…琥珀くんは本当に好きなんですねぇ、そのお相手のこと。』
『え、』
『だからこそ大切にしたい、でしょう?』
「お帰り、琥珀。」
仮住まいとしている小屋から件の「同行者」がそう顔を覗かせた瞬間、琥珀は胸がきゅっと締め付けられるような痛みを覚えた。
「……ただいま、白兎。」
義兄の言う通りだった。
自分は白兎を大切にしたい。
そして出来れば、出来ることならば、姉家族のような関係を望んでいる。
(だけど、白兎は別に俺のことなんて…)
『ごめん…俺、だめだった…?』
白兎にとって、あれはただの「恩返し」だ。
その証拠に、あの夜以降も白兎の態度は何一つ変わっていない。
まるで何もなかったかのように。
(……いや、俺の「望み」を知れば、きっとまた、)
「白兎…?」
「琥珀、疲れてるんだろ?」
ふと気付けば、妖怪の血やら何やらで汚れた衣に白兎の手が掛けられている。
脳裏に何かが蘇りかけ、琥珀は思わず息を飲んだ。
「、何して」
「大丈夫。琥珀は何もしないでいいから…全部俺に任せて?ね?」
「っ………!」
慌てて琥珀がその両肩を掴んで引き離すと、不思議そうに首を傾げながらそれを見つめる白兎。
「琥珀?」
「っ、やっぱりだめだよ、白兎…こんなこと、間違ってる…!」
「え?」
琥珀の言葉を聞き、白兎の顔が徐々に歪んでいくが、ここで躊躇っている暇はなかった。
あの時は出来なかった。
だが今は何とか言葉を尽くして説得し、思い止まらせなければならない。
白兎のことが好きだから。
「だ、だめかな?川で洗い物するのって…」
………あらいもの?
「どうしよう…俺、そこの川でもう、何回か皿とか洗っちゃったよ…」
「…さら……」
「そうだ、俺ちょっと桶代わりになりそうな物を探してくる…あ!琥珀がそろそろ帰ってくる頃だと思って、向こうでお湯を沸かしておいたから。夕餉の前に体洗ってきなよ。その間に脱いだ衣は俺が洗っておくからさ。」
「…………」
どこか楽しげに張り切った様子の白兎に、琥珀はようやく先程の言葉の、本当の意図を察した。
『何もしないでいいから』
『全部、任せて』
そして察した瞬間、崩れ落ちるようにその場に蹲り、両手で己の顔を覆い隠す。
「うぅ…っ!」
「こ、琥珀…?どうしたんだ?どこか痛いのか?」
そんな琥珀の傍らに慌てて膝を着いた白兎は残念ながら、赤く染まったその耳に気付くことはなかった。
期待込み
(だけど、そんなやりとりもきっともう)
(端から見れば、幸せな…?)
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嘘つき、ロンリー。