草太とかごめの同級生
小学生の頃、友達の誘いも寄り道の誘惑も振り切って、真っ直ぐ家に帰っていた時期があった。
たった一枚の紙を受け取るため、いや、正確に言えばそれを笑顔で差し出す相手に一目会うために。
『おっす、弟くん。これ、お姉ちゃんへの今日のお届け物。よろしくな。』
近所に住むという、姉の同級生。
今まで誰にも話したことはなかったが、実は「北条くん」よりも「犬の兄ちゃん」よりも、その人に『家族』になってもらいたかった。
「あら、初恋だったのね。」
「え?」
「はつこい?」
「パパはその人のことが大好きだったってこと。」
戸惑い、反射的に否定も肯定も出来ずにいる間に幼い娘にそう説明する妻の姿に、草太は苦笑しながら頬を掻いた。
今の話の流れで、それを「恋だ」と断じる辺り、流石萌だと思った。
そして、図星だった。
そもそも、どうしてこんな話をする流れになったのか。
きっかけは今日の夕方、草太が芽衣を連れて、実家の神社近くまで散歩に出掛けた時のこと。
鳥居の前に佇む人の姿に気付き、そして目が合った瞬間。
一瞬、呼吸が止まってしまった。
『えっと…もしかして日暮さん、の弟さん?』
『白兎、さん…?』
『あ、俺のこと覚えてた?』
名を呼ばれ、ホッとしたように「懐かしいなぁ」と笑う白兎。
高校卒業後に県外に就職して最近ようやくこっちに戻ってきたのだ、と話しながら、不思議そうに自分を見上げる視線にふと気付いたらしい。
『こんにちは。』
『こ、こんにちわ…』
草太の後ろに少し隠れるようにして芽衣が挨拶を返せば、それを微笑ましそうに見下ろしていた白兎の目が再び草太に向けられ、
『それで弟くん、お姉ちゃんは元気してるか?』
「私も会ってみたかったわ。」
萌の言葉に我に返る。
引っ越し後の白兎はまた日暮神社近くに居を構えるという話だったので、会おうと思えばきっと会えるはずだ。
そう思いながらもただただ曖昧に微笑みを浮かべ、妻を見返す草太。
実はまだ彼のことが好きだ、ということも勿論口にはしなかった。
慢性的初恋症候群
(誰にも言わないまま、気付かれないまま、それはゆっくり静かに進行していた)
(そしてきっとまた、真っ直ぐ「家」に帰る日々が始まる)
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嘘つき、ロンリー。