翡翠と琥珀と退治屋仲間


「俺もいつか、あんな風に誰かを愛することが出来るのでしょうか…」


ほう…と熱い吐息と共に呟かれた言葉。

悩ましげに伏せられた眼差し。


何より惜しげもなく晒されたその素肌から翡翠は目を逸らすことが出来ず、思わず唾を飲み込んだ。


「?翡翠…?」


そして不思議そうな白兎の声にふと我に返ると、まるで誘われるように伸ばし掛けていた自身の手に気付き、慌ててそれを引き戻す。

危うくその色香に引きずり込まれるところだったが、今はそんな場合ではない。


というか、そもそも今この場に白兎と二人きりでもなかった。


「えっと…そ、それじゃあ俺らは辺りを一回りしてくるんで!」

「お、お頭達は先にゆっくり湯に浸かってて下さい!」


そう言って見張りに向かって駆け出した六太と七助は、きっとこの何とも言えない空気に居たたまれなくなったに違いない。

出来れば翡翠も一緒に逃げ出したかったが、白兎と同様の褌一丁の姿では流石にどこへも行けない。


そんな三人の様子に白兎は首を傾げ、琥珀は苦笑を漏らすのだった。





退治屋一行が里へ帰るまでの道中にあったこの温泉に立ち寄ったのは、これよりほんの少し前のこと。

元々の予定にはなかったが、先の一件で落ち込む白兎の気が少しでも晴れるように、という琥珀の計らいだった。


とある村での妖怪退治。

今回その止めを刺し、大金星を挙げた白兎だったが、最後の最後で思わぬところから攻撃を受けてしまった。


『ひとごろし…!』


件の妖怪に惑わされた村の娘が精も根も尽きかけ、ぼろぼろになりながらも、「あのひとを返せ!」と白兎に襲い掛かってきたのだ。

幸い娘は他の村人達によってすぐに取り押さえられたものの、白兎はその顔に幾らかの爪痕を、心に傷を残すことに。


…しかし、先程から何度も溜め息を吐きながら鈍い動作で着衣を脱いでいく様は、端から見ていて妙に艶っぽくて仕方ない。まるで初夜を迎える生娘のようだ。


『俺もいつか、あんな風に誰かを―…』


その上、半裸であのようなことを言われると、やはり誘われているとしか思えな―…


(いやっ!だから俺はさっきから何を考えて…!?)


まさか、弱った白兎に浸け込もうとしているのか?俺は。

ここで想いを遂げたところで何の意味があるんだ我慢しろ翡翠…!


と自分自身に言い聞かせながら葛藤する翡翠はもう一つ、大事なことを忘れかけていた。

改めて言うが、今この場には白兎と二人きりではない。


「その傷、湯に浸かる前に一度消毒しておいた方がいいな…白兎、薬はまだあるのか?」

「あ、はい。この間補充したばかりですので…」

「貸してみろ。自分じゃ分からないだろう?ほら、もっとこっちに…目も閉じて…」

「…っ……!」

「すまん、痛かったか?」

「、いえ、大丈夫です、お頭…ん…っ…」

「白兎…」

「叔父上っっ!?」


何やら怪しげな空気を察し、再び我に返った翡翠が「何してるんですかっ!?」と怒鳴るように問えば、「何って、手当てだろう?」と平然と答える琥珀。

だが確かに今、琥珀がどさくさに紛れて白兎に口付けしようとしていたのを翡翠は見逃さなかった。


ついでに正直(あ、叔父上ずるい)と思ったが、勿論口にはしなかった。


「お、お頭?どうしたんですか?何か…?」


二人のやり取りを聞いて戸惑ったのだろう、だが白兎の目は未だ閉ざされたまま。

明らかに信頼しきったその姿に、愛おしげに目を細めた琥珀が「あぁ、何でもない。すぐに済む」と声を掛ける。


そして、その視線は再び翡翠の方へ。


「俺達には構わず、お前は先に温泉に入って来たらいい。」

「………そういう訳には、いきませんよ。」


いくら尊敬して止まない叔父とはいえ、これだけは絶対に譲れない。

そして翡翠はもう一度、今度はしっかりと自分の意思で白兎に向かって手を伸ばしたのだった。




愛とは何ぞや?

(その前では叔父も甥も関係なく、ただの男になるのです)


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嘘つき、ロンリー。