ヴィンセントと占術師


「それで、副業の方は順調かい?」

「…これを副業にした覚えはないんですけどね。えぇ、まぁ、はい。おかげさまで。つい先程も客がありましたよ。」


そう応えながら、テーブル上に並べられたカードの内一枚を捲る。


今日の相手は神経質そうなマダムだった。

どうやら本業の方を知らなかったらしく、わざとらしくも恥じらいを見せながら最後まで上品に、そして執拗に俺を詰っていた。



『あぁ、こんなところ、誰かに見られでもしたら…』



「…一つ、後悔していることがあります。」


自分で言いながら、まるで懺悔をする敬虔な信者のようだと他人事のように思った。

恐らく目の前に座っている相手もまた、柔らかく穏やかに全てを受け入れるような笑みを浮かべながら他人事のようにそれを聞いているのだろう。


「後悔?」

「先輩と関わり合いになったことですよ。」

「それはそれは…ディーも嫌われたものだね。」

「いや、ディーデリヒ先輩のことじゃなくて…」


むしろ、あの人も俺と同じ被害者側の立場ではないのだろうか。

なんて続けたところで、きっとその微笑みが崩れることはないはず。


諦めた俺は溜め息一つ吐き出して、また一枚捲る。


昔から手先は器用な方だった。


学生時代、カードのイカサマは仲間内の誰よりも早くものにしたし、手品紛いを披露しては周囲を楽しませることもあった。

特に後者は女受けが良く、おかげで口も幾分達者になった。


そこを、この男に付け込まれた。


「…ところで先輩。ご依頼のものは先程総てお渡ししたつもりですが、まだ何か?」

「そう邪険にしなくてもいいじゃないか。もう少し世間話でもしよう。」

「楽しいお喋りがお望みなら、店の者に『商品』のメニューを持ってこさせましょうか?」

「いや、それは遠慮しておくよ。愛する妻と子どもがいるんだ。」

「…だったら、今後は裏から入るようにお勧めしますよ。」


こんなところ、誰かに見られでもしたら。

そう嘆いたあの老婦人の言葉を引用し、最後のカードを捲った。


「まぁ俺からしてみれば、娼館を訪れるのも占術師を訪ねるのも、いかがわしさに関してはそう大して変わらない気がするんですがね。」


悪の貴族、ファントムハイブ伯爵。

良くも悪くも目立つ存在だ。


どちらにせよ明日には人々の口々に上り、そして瞬く間に消し去ってしまうのだろう。




何処かの誰かがそう言った

(ところで、ディーデリヒもよくここに来てるのかい?)
(…ノーコメントで。)


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嘘つき、ロンリー。