シエルと夢魔


客を見送り、館の扉が閉ざされると同時に「もういいぞ」とようやく許可が下りた。

ので遠慮なく張り詰めた緊張感を解き、ついでに「ふぇーい」と間の抜けた返事を返すと、案の定坊っちゃんの眉間に皺が寄るのが見えた。


「…おい。」

「おっと、サーセン。」

「………」

「坊っちゃん、坊っちゃん。そんな顔したら、折角の可愛いお顔が台無しっすよ?」


何か言いたげに坊っちゃんはますます表情を歪めた、かと思えば今度は深い深い溜め息。

あ、今何か諦めたな…と俺は察した。

どこかの悪魔で先輩も、よくこんな感じで溜め息を吐いているから、まず間違いない。


すると執務室に戻るのか、坊っちゃんが何も言わずに踵を返したので、俺も首元を弛めながらその後に付き従った。


「いやぁ、しっかし坊っちゃんも無茶ぶりしますねぇ…掃除夫に執事の真似事なんて、普通誰も考えませんよ?流石ファントムハイブ。」

「フン、仕方ないだろう。セバスチャンには今、別件の調べ物をさせている。」

「いやいやいや。先輩ならそれくらい、どっちもちゃんと両立させてみせますって。なんせ悪魔で執事ですからね。」


そして俺は悪魔でただの掃除夫。

人前に出るなど想定外の契約外なので、臨時ボーナスをお願いします。


と、俺の心の声が聞こえた訳でもないだろうが、突然前を行く坊っちゃんが足を止めて振り返った。

あまりに突然のことで危うく体勢を崩し、危うく坊っちゃんを押し潰すところだった。


「っと、坊っちゃん?」

「まぁ、お前も思ったより上手くやった。そこは褒めてやる。」

「へ?」


まさかここで坊っちゃんに褒められるとは思わず、一瞬キョトンと呆けてしまった。


「はぁ…そりゃ、どーも…?」


一応これでも魔の一族の末席に名を連ねている身だ。

セバスチャン先輩を基準に考えられたら困るが、それでもただの人間よりは色々と出来る方だろう。


だけど、それは坊っちゃんも当然承知のはずで、だからこそ坊っちゃんがそれぐらいで俺を褒めるはずがなくて―…


「だから白兎、その調子でもう少し付き合え。」

「え?」


その瞬間、やって来たメイドが次なる来客の訪問を告げ、思わず「うへぇ」と漏らすと我らが主は愉しげに笑ったのだった。





ご指名は延長で

(そして数時間後、戻ってきた先輩に特別手当ての支給をお願いすると、案の定笑顔で却下されるのだった)


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嘘つき、ロンリー。