瀧とバイトの先輩


「瀧くん、好きな人がいるみたい。」


閉店準備中の、他愛もない世間話が唐突にその流れを変える。

反射的に一瞬、店内へと視線を走らせ、すぐに件の後輩が今日のシフトに入っていなかったことを思い出した。


「そんなの、今更だろ。あいつが好きなのは」

「私じゃないよ。」


周知の事実、を口にしようとする前に当の本人に否定されてしまう。

やはり奥寺自身、瀧の分かりやすい好意に気付いていたらしい。


いや、それよりも、


「…つまり、何だ?フラレたのか、お前。」

「うん。みたい。」


曖昧な癖に、確信に満ちた言葉はどことなく愉しげだ。

冗談のつもりが反応に困り、結局「そうか」と一言だけ返してモップ掛けに戻った。


「相手が誰なのか、気にならないの?」

「別に。」


奥寺でないなら他の知り合いに心当たりはいない、となると、その『相手』は俺の知らない誰かだろう。

なら、名前を聞いたところでそれこそ反応に困るだけ。


だからここらで話を切り上げようとしたが、奥寺の方はまだ話し足りないらしい。


「白兎くんのことかもよ?」

「ありえねぇ。」


それに間髪入れず応えた。


「男同士だぞ。ありえねぇだろ。」


笑いながらモップを動かしていると、不意に視線を感じて顔を上げる。

すると、まるで聞き分けのない子供を見るかのような顔をした奥寺と目が合った。


「でも白兎くんは瀧くんのこと、好きなんでしょ?」

「…………」


溜め息一つ吐き出し、完全に手を止め、改めて奥寺に向き直る。



「好きになったら、絶対両想いにならないと死ぬのか?」



そしてまた何かを返される前に、「いいんだよ、俺は。今のままで」と続けて、今度こそその話を終わらせたのだった。






多くは望まない

(明日になれば、きっとまた)
(君は遠慮がちに笑いかけてくれるだろうから)


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六周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!




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嘘つき、ロンリー。