矢一郎といとこ


「よぉ、そこ行く色男。一杯やってかねぇかい?」


なんて、どこかの呑み屋の親父のような声を掛けてきたのは甚平姿の男。

駄菓子屋前のベンチに居座り、団扇を扇ぎながらラムネを掲げて笑っていた。


「…何をやっているんだ、お前は。」

「いやー、婆ちゃんが昼寝したいって言うから代わりにちょっと店番を。」


つられるように店の中を覗けば、奥の座敷に座布団一枚、毛玉が一つ。

微かに上下して見えるのは眠っているからか、それとも回っている扇風機のせいだろうか。


「という訳で、売り上げ貢献よろしく。」

「…一本だけだぞ。」

「まいどあり!」


てっきりその手にあるのを寄越すかと思えば、白兎はベンチから腰を上げ、店の中から新しいラムネを持ってきた。

よく冷えているらしく、瓶の表面に水滴が浮かんでは次々と白兎の手を伝っていく。


(なかなかの商売人だな…)


そして差し出されたそれを受け取ろうとして、はたと俺はその手を止めた。


「ん?どうした、矢一郎。」


思い出したのは去年の夏、確かあれも今日のような暑い日ではなかったか。

確かあの時も、今日のように白兎と矢三郎が俺を誘って…


「そ、その手には乗らんぞ!」

「は?」

「大方、散々振っているのだろう!?それかシャンパンのようにビー玉が飛び出す仕掛けに」

「うたぐり深いやつだなぁ。」


そう笑って、白兎はラムネ瓶のビー玉を勢い良く中へと押し込んだ。

そして開いた端から微かに零れそうになるその炭酸を一口飲む。


「ん…ほら、これで大丈夫だろ?」

「あ、あぁ…」


改めて差し出されたそれを、恐る恐るだが今度はちゃんと受け取る。


(…前科があるとはいえ、純粋な好意を疑ってしまった…)


白兎はそう気にしないだろうが、ばつが悪い。

何とか自分の気持ちをごまかそうと、俺はラムネを勢い良く呷った。





ラムネの、

(間接キスだと気付いた矢一郎が噴き出すまで、残り3秒)


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嘘つき、ロンリー。