エラムとギーヴの旧知


「…ここまで来れば、もう大丈夫そうね。」


そう言って離された手を少し名残惜しく感じた自分自身に、エラムはひどく驚いた。

そんな戸惑いに気付くことなく、相手がその顔を覗き込む。


「怪我はない?」

「え、あ、はい…」

「ふふ…あなたみたいな可愛らしい子が一人であんな道を通るなんて、あまりおすすめしないわ。」


主人であるナルサスの遣いを終え、帰還を急ぐために入った裏道。

いつものように少女に扮していたエラムは、そこでいつものように破落戸連中に絡まれてしまった。


だがいつもと違ったのは、エラムが短剣を取り出すより先にそれを遮る者があったこと。


「男なんて皆馬鹿なんだから、まともに相手するだけ無駄よ。」


エラムを「妹」と呼び、笑いながら男共を軽くあしらった、一人の女。

助けられたのだとエラムが我に返った時にはもう、その馬鹿な男共ははるか後方だった。


「あ、ありがとう、ございます…」

「どういたしまして。」


そして女の鮮やかな手並みに、いや雰囲気そのものにすっかり呑み込まれてしまっていたのだろう。

だから別れ際、「それじゃあ、これも返しておくわね」と手渡されるまで、エラムは懐の短剣が無くなっていることに気付かなかった。










「なるほど。世間とは狭いものだな。」


ナルサスの話を聞き終えたダリューンはそう頻りに感心してみせた。

その視線の先にあるのは、件の二人の姿。


片や元ダイラム領主の侍童・エラム、そしてもう片や流浪の楽士の知人・白兎。

ぺシャワールへと向かう途中に合流した際、「「あ」」と重なった声は未だ記憶に新しいものだ。


そして次の瞬間、どちらともなく少し複雑そうに歪んだ表情も。


「それで、二人一緒に偵察に行かせるのか?」

「あぁ。相性は悪くないようだし、二人の方が何かと便利だからな。」


何かあれば互いにフォローが出来るだろう。

エラムの力量は既知のもので、白兎の方もギーヴが保証しており、先の話を聞いた限りでも特に問題はなかった。


それに年若い『少女』が一人でいるより、年若い『姉妹』が二人でいる方が怪しまれまい。

いや、今は『兄弟』か。


「……どちらにせよ、もう少ししたら『きょうだい』には見えなくなるだろうな。」

「ナルサス?何か言ったか?」

「いや、何も。」


そして不思議そうに首を傾げる黒衣の騎士に小さく肩を竦めて苦笑で返す。

その目に一体何が映っていたのか、知っているのは未来の宮廷画家ただ一人であった。







小春到来

(今は誰も気付かない。)


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五周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!




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嘘つき、ロンリー。