乾と友人


とあるコロニー近くを通り掛かったところ、乾の前に慌てふためいて現れたのは一匹のバケネズミだった。


それはひどい取り乱しように加えて人語が不得意な個体らしく、その内容はいま一つ要領を得ない。

何とか「怪我をした神様がいる」ということが分かったのは、偏に乾が鳥獣保護官だったから、バケネズミの言葉を解することが出来たからだろう。


他の者ならもっと時間が掛かったに違いない。


(言語教育…とまではいかなくても、緊急時の伝達手段についてはもう少し何とかした方がいいかもしれないな…)


「怪我人」と聞いておっとり刀で駆けつけるものの、頭ではそう冷静に考えを巡らせる余裕が乾にはあった。

職務上、必要なスキルだ。


が、問題の「怪我人」を目にした瞬間、先程のバケネズミ以上に取り乱すことになってしまう。


「白兎…っ!?」


少々声を裏返しながら、周囲を取り囲むバケネズミ達を押し退けて旧友に飛び付く乾。

応じる白兎はどこか呑気な様子で、「あぁ、乾か…助かった」などと苦笑さえ浮かべていた。


「怪我をしたって…いや、そもそも何でこんな、」

「別に大した怪我じゃない。ちょっと足を捻って、ここで少し休ませてもらってただけだよ。」


言われて視線を下げれば、確かにその左足首辺りに応急処置の跡があり、他は特に何もなさそうだ。

ひとまずそれを確認して乾は安堵の息を吐き出し、白兎はバケネズミ達に向き直る。


「迎えも来たし、そろそろ帰るよ。世話になったな。」


だが大した怪我ではないとはいえ、白兎の足で歩くには町まで距離がありすぎる。

そのため二人はバケネズミ達から台車代わりになるものをもらい、それを乾が呪力で押すことになった。


そしてその準備の間、念のため乾は白兎の怪我の処置を改める。


「面倒かけて本当悪い。」

「それは構わないけど…」

「悪いついでにこの怪我、お前と会った後に負ったことにしておいてくれないか?」

「え?」

「結構無理言って町を出てきたもんだから、ばつが悪くて…お前に会って気が弛んだせいってことにしておけば、まぁ、そんなに叱られることもないだろ?」


肩を竦めてみせる白兎を見上げ、思わず手が止まった。



『無理を言って、町を出てきた』。



それは、何のために?



「でも本当助かった。ここ、なかなか解放されなくて…もしお前が通り掛かってくれなかったら、このままバケネズミ達の王様に祭り上げられるかと思ったよ。」


乾が口を開くより先に、さらに畳み掛けるように冗談めかして笑う白兎。

そしてもう一度、何か言おうと試みた乾は、だが今度は「準備が出来た」と呼びに来たバケネズミによって遮られてしまうのだった。


「よし。じゃあ帰ろうぜ、乾。」





かみさまのひみつ

(知りたい、けど、知りたくない)
(知ってはいけない、ような)


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七周年企画より。
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嘘つき、ロンリー。